第48話 間話 三大厄災

 

 世界の三大厄災。


 ──それは今では嘘か本当かが実はよく分からない、語り継がれているようだか、そうでもないような風説。


 現在では御伽話のようにもなっていて──


 何でも世界には時間を操る不老不死(真実は不死のみ)の時の魔法使いという存在が居て、その力は世界を滅ぼす事が出来るとかなんとか……。


 何でも世界には不老不死(真実は不老のみ)の存在がもう1人いて、それは自らが作った空間魔法でこの世界を包み込んでいて、いつでも世界をその空間の中に閉じ込める事ができるとかなんとか……。


 何でも世界にはその2つの存在をも脅かす存在がいて、それは咆哮一つで大陸を滅ぼし、拳一つで世界を粉々に出来るとかなんとか……。


 ──と、言われていた。


 しかもそれは主に魔法使いたちの家系に伝わっているものがほとんどで、魔法を使わない者たちの大半には知られていなかった。


 故に魔法使いたちの中でもこの伝承は信憑性に欠けるとされていた。何故なら世界規模の大厄災であるのならば世界中の誰もが知っているのが自然だろうから。それになによりも個体で神が定めた天災以上の脅威を扱うというのが実に嘘くさかった。


 世界に23人しか居ない参大魔道士のフルーナ・ポートレール(コールナの姉)は言う。


「居てたまるかそんな存在。昔にも存在してないさ。不老不死? はん、バカくさい! 時間を止める? 空間を閉じる? 拳一つ? 世界をナメるのも大概にしなってんだよ! バカバカしい。世界に大陸が幾つあって、人口が何人居るか知ってんのかって話だよ! バカバカしい。あーバカバカしいったらありゃしないね。ははん」


 そんな少し口の悪いフルーナが“時の魔法使いのミヨクと出会った”のは参大魔道士に成ったばかりの26年前の事であった。


 その時のミヨクは36歳の無精髭に短髪姿で、何故かツナギの服を着ていて、なんとなく外現場作業が似合うような風貌 (たぶんマイブーム)をしていた。


 当時のフルーナは魔法の勉強ばかりをしていた堅物であった。それ故に自分よりも遥かに魔力の高みにいるミヨクに瞬時に憧れを抱き、それに加えてミヨクのその時の風貌が恋心にストライクヒットをしていた。


 ──ツナギ服が似合う人、チョーカッコイイ。と。


 そして、


「本当に存在していたんですね、私の王子さ……いや、時の魔法使い様が……ふふふ」


 フルーナは恋愛経験が無いくせに性格は超ストレートだった。


「……お、王子……? うん、えっ、いや、聞き間違いかな。いや、そうだよね……いや、うん、まあ、そうだね、俺は時の魔法使いで本当に存在しているね」


「凄い魔力の量ですね。王子さ……いや、時の魔法使い様」


「王子……? やっぱり言ってる? いや、うん、いや、まあ、そうだね、って、俺の魔力の量が分かるの? 怖くない?」


「はい、王子さ……いや、時の魔法使い様。私は魔力感知が得意なので分かります。怖くはないです。いや、寧ろ心地良いです。ふふふ」


 ミヨクは思った。なんか気持ち悪い奴だな、と。


「──それで、今日はどういった御用ですか王子さ……いや、時の魔法使い様?」


「……うん。いや、その前に一旦、いちいち王子さ……って言うのを止めようか。わざとだよね。さすがに4連発はわざとだよね」


「……えっ? うそ。本当ですか? 私そんな事を言ってましたか? 嫌だわ、私ったら。全然そんなの口に出そうと思っていないのに。勝手に出ていってしまうのだわ。心の声がそのまま出てしまうんだわ。そう、心の声が勝手に。本心だから仕方ないですよね。いや、でも恥ずかしいですね。本心だからこそ。なので聞こえなかった事にしておいて下さい。絶対にですよ。私の心の声は恥ずかしいので聞こえなかった事にしておいて下さい。ふふふ」


 そう言いながらもフルーナはしてやったり感を表情にわかり易く浮かべながらミヨクをじーっと見つめていた。物凄く気持ち悪い感じで。


「……うん。なんか分かりやすい性格だね。それはよく分かるよ。う、うん。聞こえなかった事にするけど、ただ、先に言っておきたいんだけど、俺、もう1000年以上生きている(この頃もよくそう言っていた)から、そういうのちょっとキツいかな」


 キツい。一方的な求愛行動が。それは恋愛初心者のフルーナでも理解できる拒絶であった。


 ──そして当然にそれは、彼女にとって初めての失恋へと繋がった


 故にフルーナは心が混乱し、だいぶ混乱をし、物凄く混乱をし、やがて荒んだ。


「は? キツい? えっ、何が? って、なにそれ食い物かなにかだっけ? 聞いた事ない言葉なんだけど。ヤバ、ウケるわ。キツいってなにソレ? ヤバッ、ははん。ははん。ってか、なに? 時の魔法使いだかなんか知らないケド、何しに来たワケ?」


 フルーナはこの日を境にこんな威圧的な喋り方になったそうな。


「……いや、ほら、参大魔道士って凄い事じゃん。成るのって凄く難しいじゃん。だから俺、参大魔道士に成った人に、おめでとう。って言いたくて来た──」


「くだらねー!! チョーくだらねーんですけど!!」


 一蹴。まさに一蹴。くだらねー。


「……いや、俺、ほら、自分で言うのもアレだけど、割と凄い魔法使いだから……時の魔法使いだから……俺が褒めると喜ぶ的なアレかなと思って、ほ、ほら学校の先生が児童を褒める的な──」


「ウッゼー!! マジうぜーわ、そういうの!! 暇なだけだろうが!! 暇なよ! 暇潰しに大層な理由を付けてるんじゃねーよ、タコが!!」


 一蹴。まさに一蹴。おまけにタコ……。


 ミヨクは、人とタコを同時に侮辱するなんて酷い奴だな、とそこの時間だけ消してしまおうかと考えたのだが、その前にフルーナに「だったら、だったら現れるんじゃねーよ。人の心を揺さぶりやがってよ! ちくしょうが!」と怒鳴られて更にへこんだ。勿論、勝手に恋愛感情を抱いたフルーナの一方的な逆ギレなのだが。


 そんなこんなで、フルーナ・ポートレール(現在72歳。見た目は40代の美魔女)は、三大厄災の時の魔法使いミヨクの事が大嫌いであった。


 ただ、


 三大厄災は存在する。


 それは参大魔道士以上の魔法使いならば誰もが知っていた。何故ならそれ以後もミヨクは必ず参大魔道士に成った者に、おめでとう。と会いに行っていたのだから。


 では、他の2人については?


 たぶん実在するだろうと誰もが予測していた。ミヨクが実在するのだから他の2人が実在していても不自然はない、と。


 ただ、フルーナ・ポートレールは、


「居るか、そんなもん! 私の心をたぶらかしやがって! はん、三大厄災? 時の魔法使い? 居るか、そんなもん!!」


 ……らしかった。

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