第44話 リドミの大陸の夢の魔法使い④

 

 ゼンちゃんとマイちゃんとハウが輪を作ってきゃっきゃっと楽しそうにはしゃいでいる最中、ニヒルな校長がようやく立ち上がった。


 ミヨクはそんなニヒルな校長に近寄ると、開口一番に「なにアレ?」と問いた。


「──弍大魔道士以下の魔力を感知するのは苦手だから分からなかったけど、改めて冷静に感知すると、あの少女、ハウだっけ? 間違いなく魔道士だね。火の魔法使いだね。いや、それよりも、なに17日目って? 17日目って生後の事? 生後であれは大きすぎじゃないか? えっ、俺には10歳前後の少女に見えているけど、いや、そもそも10歳前後で魔道士ってのもアレなんだけど、えっ、いや、アレなに? えっ、えっ──」


 そんな取り乱すミヨクをニヒルな校長は手のひらを向けて制すると、「……ミヨク様。落ち着いてください。事情を知らないようなので、これから私が私の知りうる限りアレの事を語りますから」とニヒルな口調でそう言った。


「……お前、1000年以上生きてる俺の言葉を、しかも手のひらで遮ったな……」


 たまに小さい事を気にするミヨクは無視をしてニヒルな校長は話を始めた。


「……」



 ◇◇◇



 校長が言うには、


 ハウは急に現れたらしかった。


 今より16日前にこのウナサの町に現れて、適当な住居に勝手に侵入をして、「ハウだ。腹が減ったから蒸かし芋をくれ」と言ったそうだった(校長は後にその住居の住人からそう説明を受けた)。


 ハウは10歳前後の少女の姿をしていて、着ていた浴衣(ひまわり柄)が随分と泥だけで、故に住居の住人はハウを戦争孤児か何かだと思い手厚く保護したそうだった。


 だが、ハウは戦争孤児ではなく、ただ普通の──いや、普通以上に元気な少女で、浴衣が泥だらけだった理由は「この町に来る途中で水溜りを見つけてな、水溜りと泥を見たら身体がむずむずしてな、それでこうなったんだ。泥遊びは楽しいな。ふはははははははっ!」という事らしかった。


 住居の住人はハウを少しアレな子だなと思い、自分では手に負えないと早急に判断をし、この町で一番に頼りになる魔法学校のニヒルな校長にハウを預けたようだった。


 ニヒルな校長はハウが魔道士である事をすぐに見抜き、当然にそれに驚いたようだったが、ただそれ以上に年齢を聞いてもっと驚いたようだった。


 なんだろう2日目って……。最近の子供の間で流行っている冗談なのかな? 


 と。だが、その日は取り敢えずうやむやな感じでハウを校内に泊めて、翌日の朝食の時に「本当は幾つなんだい?」とニヒルな校長が改めて聞くと、「ん? 昨日が2日目だから、今日は当然3日目だぞ。当たり前だろ。お前、そんな簡単な計算も出来ないヤバい奴なのか?」と、さも当たり前の顔をして言われたので、ニヒルな校長も、ああ……年齢は本当に3日目なんだ、と納得せざるを得なかった。


 見た目が10歳前後に見える生後3日目の少女。


「……ハウは、魔道士の素質を持っているようだけど、まさか魔法は使えるのかな?」


「ん? 使えるぞ。コレの事だろう」


 そう言うとハウは【ホワホワ《燃えない熱》】を使って見せた。


 それは魔道士でも中級クラスにならないと使えない高度な魔法で、いやそれ以前に魔法とは親であっても子に教えるのが禁じらているもので、あくまでも学校で習うのが通例で、故に学校に通う前に魔法が使えている時点で既に異例であるとニヒルな校長は思った。


「魔法はどこで習ったんだい?」


「ん? 習っていないぞ。じいさんとばあさんの家を暖めようと願ったら使えただけだぞ」


「じいさんとばあさん?」


 いや、それよりも……願うだけで魔法が使えたという点が物凄く疑問だった。しかも話がまた前に戻ってしまうがコレは生後3日目の少女……。


 ニヒルな校長は少し考えた。そしてふっと決断をした。


 これは、私の手には負えないアレだな……と。


 故に、国の中心街(都市のようなもの)にある本校へとハウを連れて行った。


 そして事態を鑑みた結果、急遽、全ての町の校長が招集され、誰もがハウを確認し──


 ああ、これは確かに何か違うアレだな。誰の手にも負えないアレだ。取り敢えず触らぬ神に祟りなし的な感じで、自由な存在にしておこうか。


 ──と判断(?)をし、本校の校長も含めた全員一致により、トータル時間3時間で魔法学校の卒業が許され、ハウは取り敢えず正式に魔道士と成ったようだった。



 ◇◇◇



「──それから、本校の往復に6日を費やしまして、本当は本校のある中心街でハウの面倒を見て欲しかったのですが、本校の校長に断られまして……それでこの町に連れ帰って来たのですが、この町に帰ってきた時に、ハウが、学校を卒業したからじいさんとばあさんに報告しに行ってくるぞ。と言い残して去っていきまして、それで私はホッとしていたんですが、昨日またこの町に戻ってきまして、それで先ほど私の所に来て、また入学しに来たぞふははははははは。となっているところでミヨク様がやって来たので、私はてっきり──」


 ミヨクは校長からそこまでの話を聞いて、取り敢えず物凄く今日この町にやってきた事を後悔した。と、同時にタイミング良く(?)アレことハウがゼンちゃんとマイちゃんとの輪の中で「ふはははははははっ!」と楽しそうに笑った。


「ミヨク様は1000年以上を生きている世界最高の魔法使い様ですよね? 当然、私たちでは手に負えないアレの対処を任せても良いのですよね?」


 校長がそう言ってきた。


 確かにミヨクは1000年以上を生きる世界最高レベルの魔法使いで、これまでにも幾つものトラブルを……対処してきたような、見て見ぬふりをしてきたような、頼りになるのか、頼りにならないのか実はよく分からない存在なのだが……いや、だからこそミヨクは持ち前のそんなよく分からない立場だからこそ、こう告げるのだった。


「……俺、この国の近くにあるモクジュの国に行きたいだけなんだ。そこに大事な用があってね。でもモクジュの国に入るには結界魔法を抜けて行かないといけないよね。だから、もしかしたらこの国にモクジュの国に行った事がある人がいて、その人に橋渡しを頼もうと思っていただけなんだ」


 と、自分の要件をさらりと述べた。


「──だから俺、忙しいんだ。ちょっと今は他の事に構っている暇がないんだ」


 ミヨクははっきりそう言った。俺は1000年を生きる最高レベルの魔法使いだけどアレの対処なんてしないよ、と。


 だがその時、ゼンちゃんとマイちゃんの輪の中から咄嗟にアレがこう言ってきた。


「モクジュの国か? ふははははははっぶはっ! ぐはっ! ごほっ! ごほっ! ごほっごほっごほっ…。ふー……いやいや、笑いすぎてむせたわ! ふははははは」


 いや、先ずはむせてから、その後でこう言ってきた。


「──行った事があるぞ。じいさんとばあさんの家に行く時に道を間違えてな。3日くらい住んでいたぞ。なんか困っていたから助けてもやったぞ。ふはははははは」


 ミヨクは途端にギクリと喉を鳴らした。何故ならこの話の流れは嫌な予感しかしなかったから。特に最後の、困っていたから助けてやったぞ。ふはははははは。が物凄く。


「──だから“わら”が居たら顔パスだぞ。困っていたのをわらが助けたからな。ふははははははは」


 顔パス……いや、それよりもミヨクはハウの一人称にこの日一番の驚きを見せていた。


 わら。


 それは1000年の間で一度しか耳にした事のない一人称。


 わら。


 800年前にラグン・ラグロクトを倒す為に共闘した仲間の一人称。


 ルア。


「えっ? うそ……」

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