第35話 カネアの大陸の女王と英雄③
戦争を終えると女王アイスは大浴場で身体の汚れを落とし、それから自室で正装着ではないラフな格好 (スウェットの上下にカーディガン)に着替えて、それから城の地下に降りていった。
──そこで壁に持たれて疲れを癒しているキオウを見つけて、その大きな赤い身体に勢いよく飛び込んでいった。ぼふっと。
そして、
「頭を撫でろ……撫でて、キオウ」
アイスはそう言った。
すると、
「……頑張ったな、アイス」
キオウはそう答えて、その巨大でごつい手のひらで女王アイスの頭を優しく撫でた。
「──泣くか?」
「……泣かない」
アイスはそう答えた。
「──我……私はもうこの国の王様だから、泣かない。ただ怖かったから……人をいっぱい殺して怖かったから、もうちょっとこのままでいさせて」
先程とは打って変わって弱々しい声で肩を震わす女王……いや、今この場にいるのは恐らくただの15歳の少女であった。そう、強気な姿勢を崩したただの15歳の少女が初めて体験した戦争に身体を震わせて怯えていた。
「戦争だ。殺さなければこっちが殺される……。だから気に病むことはないさ」
キオウはそう言った。アイスの背中に伸し掛かっている重圧を理解しながらも、それから解き放ってやる事が出来ない歯痒さを表情に滲ませながらも。
「分かってる……分かってるから……私だってどっちの命が大事かなんて分かってるから……自分の国の皆の方が大事。でも、それでも割り切れるものじゃないの、人の死は……。人には親が居て、子供が居て、友達も、恋人も、みんな生きる理由があって…………でも……でも私だってちゃんと分かってるから、分かっているから……でも、今日はこのまま震えさせて。王として段々と慣れていくから。だから今日だけは昔みたいに頭を優しく撫でてよキオウ」
「分かった……」
女王アイス。2か月前に前王の父が他界し、急遽この国の王様になった少女。戦争が絶えない大陸で、その重荷をその小さな肩に背負わされた少女。語頭で、「ん」と奥歯を噛み締めるのは、彼女なりの心と言葉に力を込める為の気合いのようなものであった。
女王アイス。
──本当は15歳のただの少女。
◇◇◇
それからやや暫くこのままの時間が流れた。それは実際には僅かなものであったのだが、それでもアイスはその癒しを存分に堪能したようだった。
故に、
「……ん。よし。もう大丈夫。大丈夫って事にする。女王としての仕事が残っているから、もう行かなきゃいけないから」
と、半ば強引に顔を上げた。
「……そうか」
「そう。だから、ありがとうキオウ。癒された。でもこの事は皆には内緒ね……恥ずかしいから。笑われちゃうから、絶対に内緒ね」
「ああ、分かっているさ。皆には内緒だ。コレはそれを誓うさ」
「さあ、敗北宣言をするって嘘をついて国から避難してもらった皆を呼び戻さなきゃ!」
「……頑張れよアイス……いや、女王。コレには戦う事しか出来んが、いつでもお前の味方だ。お前が幼い頃からずっと。だから何かあったらすぐに呼びに来い。コレはいつでもここにいるから」
「……うん……いや、ん。また頼むぞ護り神」
アイスは少女から女王へと姿勢を変えると、キオウに背を向けて階段を上がっていった。
その頃──
ミヨクとゼンちゃんとマイちゃんは、ポトスの国を南下してマトト国の領土も抜け、リゴン国との丁度境となる森の前に来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます