第32話 ギンロシの大陸の仙人⑦

 

 翌日、ミヨクたちは時間を止めて山を降りて、樹海で気聖使いたちに戦いを挑まれてはゼンちゃんが返り討ちにしながらを繰り返して、キースの町に戻ってきた。


「次はどの大陸に行くんだ?」


 ゼンちゃんがミヨクにそう尋ねた。マイちゃんは魚屋さんの店前に並んでいる魚を興味津々に眺めていた。


「うん。そうだね。取り敢えず南東のカネアの大陸に行こうか。ここから近いし、この町からポトスの国まで船も出てるし。ここより暖かいし」


「分かった。確率は4分の1だから、そこにいるといいな夢の魔法使い。おーい、マイ行くぞ」


 ゼンちゃんが呼ぶとマイちゃんが「はーい」と元気に駆けてきて、今魚屋さんの店主から学んできたであろう魚のあれこれを2人に話し始めた。少し興奮気味に覚えた知識を忘れないように早口で楽しそうに。


 それをゼンちゃんは、うぜー、とは言わずに黙って聞いていて、ミヨクはそんな2人を見て微笑んでいた。


 船乗り場に着くと、船は明日の朝一に出航するらしく、仕方なくミヨクたちは昨日の宿にもう一泊をした。


 そこでミヨクはまた夢を見た。夢の魔法使いによる予知夢を。


 ──それは例の如く、宇宙のような景色に文字がどんどんと拡大してきては、次々に消えていった。


 ハズレた!


 5分の1の確率を見事にハズシた時の魔法使いと可愛いぬいぐるみの2体!


 その分だけ時間が経過してラグン・ラグロクトの復活に間に合わないかも知れないのに……


 何をしているんだ、時の魔法使い! 何をしているんだ可愛いぬいぐるみのゼンちゃんとマイちゃん!


 結局は何だかんだと理由をつけてラグン・ラグロクトと再会するのを嫌がってるんじゃないのか?


 嘘つきなのか? お前は嘘つきなのか?


 行動が遅いぞ! 行動が遅いぞ! 時の魔法使い!


 仙人と長話をする暇があったら早く吾輩こと夢の魔法使いを探せ!


 時間がないぞ! 時間は無限じゃないぞ! 時間は有限だから……って、時間を時の魔法使いに言うのもアレか…………………… coming soon。


 ガーガーガー。


 ……ミヨクは眉間に皺を寄せながら起きあがると先ず言った。


「予知夢じゃねーよ!」


 と、声も高々に。


「──なんだよ、今の? ぜんぜん未来の話してないじゃん。過去の話してるじゃん。昨日の話とかしてるじゃん。俺を咎めてるじゃん。急かしてるじゃん。最後は自分に突っ込んでるじゃん。なんだよカミングスーンって? なんのカミングスーンだよ! くそう、やっぱりあいつ楽しんでるな」


 夢の魔法使い……確かに悪戯が好きな感じが伺えた。



 ◇◇◇



 世界一目覚めの悪い夢を終え、そのせいで朝食も美味しくなかったけれど、それでもミヨクは気を取り直して船場に向かい、予定通りに船(動力は風の魔法)に乗ると、そのボートよりも静かで快適な波の揺れに思わずうとうととしそうになったが、また予知夢という名の悪夢を見せられては堪らないので必死に耐えた。


 余興の何も行われない船で、船客は他にはおらず、海の魔獣に襲われたらなんとかしようと考えていたのだが、海は穏やかで、あと1時間くらいで目的地に着くとアナウンスがあった瞬間に、ミヨクはうっかりと油断して眠ってしまった。


 そして──


「ミョクちゃん、着いたよ」


 と、1時間後にマイちゃんに普通に起こされた。


「……くそう。流れ的にまた予知夢があるのかと思ったら無いのかよ! 決して楽しみにしてた訳じゃないけど、なんか損した気分だよ!」


「ど、どうしたのミョクちゃん? 嫌な夢でも見たの? 大丈夫?」


「マイちゃん……大丈夫……。寧ろ夢が見れなかっただけだから」


「そう? オラは寝たりしないからよく分からないけど、ミョクちゃんが大丈夫っていうならきっと大丈夫なんだね。よく分からないけど、分かったよ」


 そう言ってマイちゃんは「えへへ」と笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る