第31話 ギンロシの大陸の仙人⑥

 

「びっくりしたわい。ここで心臓が止まって、ワシの800年の生涯が終わるかと思ったわい」


「まあ、ラグンが復活したらどのみち世界は全滅なんだけどね」


「他人事じゃのう。まあ、お主は死なんからのう」


「うん。巻き戻るからね」


「完全に不死なのか?」


「いまのところはそうだね。1000年以上生きてるからね。ただ老いはくるから辛い時もあるけど」


「ワシは絶対にいつか死ぬだろうのう。800年生きておるけど徐々に老いておるからのう」


「そういや仙人の頭が禿げたのって200年くらい前だっけ?」


「そのくらいだったかのう。悪い事は忘れる事にしとるんじゃ。そのくらいから鏡も見なくなったしのう。だからワシの中では、ワシはいつまでもイケメンのままじゃよ。ホッホッ」


「……お前がイケメンだった頃を俺は知らないけど……いや、でも凄いよ。俺はてっきり長生きは魔力のせいだって思っていたから、例外がいるのには今でも驚きだよ」


「うーむ。気聖とはなんなんだろうのう? 呼び名は後で付けられたものだからどうでもいいんじゃが、ワシは生まれた時からこの力を持っていたからのう……なんでこんなに強くて長生きなんじゃろうのう?」


「……ラグンが最初に滅ぼした大陸の唯一の生き残りだからかな?」


「……うーむ。お主からよくその話を聞くが、その頃はワシは赤ん坊だったからからのう……関係あるのかのう?」


「さあね。それは知らないよ。とにかく仙人は強くて長生き。それが現状だよね」


「そうじゃのう。現状は現状じゃのう。ところでファファルは? ファファルも不死なのか? あやつも1000年以上は生きておるよのう?」


「ああ、アイツはたぶん不死じゃなくて不老。殺せば死にはするんじゃないかな? アイツが風邪をひいて辛そうにしているところを見た事があるし。いや、もしかしたら長生きなだけで不老でもないかも知れないけど、他人の事は俺もよく分からないよ。殺す事も不可能に近いしね」


「ラグン・ラグロクトは?」


「アイツはほぼ不死かな? これもよく分からないけど、ただとっても頑丈だよね。魔法にしろ武器にしろ、ほとんど効かない。不老はどうなんだろうね? そうでない事を願うばかりだよ」


「仮にラグン・ラグロクトが不老でも不死でもないのならば、ラグンに世界が滅亡させられた後でお主とファファルだけが生き残るのう」


「ラグンに世界が壊されてなければね」


「だったら生命は終わらないのう」


 仙人はそう言った。


「えっ?」


 とミヨクは非常に驚いた。


「お主とファファルは男と女じゃからのう」


 仙人はそう言った。


「えっ?」


 ミヨクは世界に隕石が降ってきて一瞬にして滅亡させらてしまったかのように驚いた表情を浮かべた。


「えっ? えっ? い、いや、何言ってんだよ? む、無理だよ。だって俺とファファルは──」


「知っとるよ。殺し合いの関係なんじゃろ。ただそうも言っておられんじゃろ。生命が生まれなければ世界なんて存在してる意味もないんじゃから。それとも、2人きりになった世界でお主とファファルはいつまでも殺し合いを続けるのか?」


「……いや、基本的にどちらも殺せないし、時間経過で勝手に死ぬ事もないから最終的にはお互いに何もしなくなると思う……」


「それって物凄く暇じゃないのか?」


「うん……生き地獄だね」


「じゃろ。だから──」


「いや、でもそれはない。だって俺とアイツは──」


「ん? なんじゃ? 随分と頑なじゃのう? なにか秘密でもあるのか? 殺し合いの関係以外にも何かあるのか?」


「……いや、べ、別にないけど……っていうか、そもそもなんだけど……いや、そうならない為にも、が今まさに新たに追加されたんだけど、俺はもともとラグンが復活する日に会いに行く予定なんだ。だから夢の魔法使いを探して、その正確な日時を教えてもらおうとしてるんだ」


「ラグンを止めるのか?」


「戦えば止められないだろうね。アイツ最強だし。でも戦いにならない可能性も……いやラグンに限ってはないかな……でも、取り敢えずは会いに行くよ。どうなるかは分からないけど、取り敢えず俺はどうせ死なないから」


「そうか。まあ、死なないお主の特権じゃな」


「そう……って、なんか結局は長話になったね」


「ワシの暇潰しには最適じゃったのう。ホッホッ」


「仙人、お前わざと話が長くなるように仕向けたろ?」


「お主とファファルの事かのう?」


「う、うるさい! その話はもういい。するな」


「ホッホッ」


 そんな2人のやりとりを聞いていたゼンちゃんとマイちゃんは、ミヨクが普段よりも随分と声を荒らげて感情を露わにしているなと思っていた。きっとこの世界で希少な歳が近い存在だから心がとてもオープンになっているのだろう、と。


「って、それより仙人。長話になったんだからお茶くらいだせよ。喋ると喉が渇くんだから、そのくらい当たり前に出せよ。ついでに茶菓子も」


「ミヨクよ、忘れたのか? ワシが茶も食事も一切摂らない事を。故に気が利かなくて当たり前じゃろう」


「そ、それでも……お前が茶も食事も一切摂らないのは確かに忘れていたけど……それでも歳上には出すのが礼儀というものだろうが」


「ミヨク、お主、今は25歳じゃろ? だったらワシの方が遥かに歳上じゃ。この小僧めが!」


「こっ? こっ……だと? 俺の方が200年以上は先輩だぞ、この小僧が!」


「はーん。残念でした。巻き戻りは年数を積み上げてはないので、単純に足し算は出来ませんでした。はーん」


「なんでお前がルールを決めるんだよ! はーん、ってなんだ? はーん、って?」


「はーん。はーん。はーん。はーん」


 ゼンちゃんとマイちゃんは2人のやりとりが恥ずかしい感じになってきたのでそろそろ止めに入ろうかとも考えたのだが、なんか2人とも楽しそうだったので止めておいた。

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