第30話 ギンロシの大陸の仙人⑤
卵顔の爺さんの家は質素というかだいぶ適当なもので、寿命を終えた木や枝を運んでは積み上げて、なんとなく外との隔たりを作っているような感じだった。
冬には厳しい極寒の地で何故その程度の軽装備で充分なのかは、それは彼が気聖を極め、外気に体温が狂わされないからであった。
自分の周囲はいつでも自由に快適温度。故に彼は素っ裸で生活する事も可能なのだが、この大陸に人が増えてきた事で今は自粛していた。
気聖を極めた仙人。いや、気聖を生み出した仙人。そんな彼は毎日を暇に過ごしていた。
「する事がないからのう……。ワシの溢れ出る気聖は普通の人間に害を及ぼすしのう……」
自由に動く事が許されない強すぎる彼。そんな仙人の唯一の楽しみが──
「──しかし、あの熊の魔獣は強かったが、そもそも気聖使いたちの強さがまだまだじゃのう。あれでトップクラスか? 先が思いやられるわい……」
と、独り言を呟くことであった。
「──独り言だけじゃないわい! たまにさっきのように気聖使いとも話すわい!」
……しかもそれも極めると、まるで誰かと会話しているようでもあった。
「……まあ、いいわい。どうせ暇じゃしのう。暇潰しついでに、ワシがさっき言った──先が思いやられるわい、って言った意味も教えてやるかのう」
独り言で。
「──この大陸に人が集まり、気聖を使える者たちが増えてきた事で、ワシは1つのルールを設けたんじゃ。それは下剋上システムで、気聖を使う者はいつでもワシに挑戦ができるというものじゃ。そして見事にワシを倒す事ができたら、その者が新しい仙人という事になるんじゃ。ホッホッ」
と、いう実はこの卵顔の爺さんのただの暇潰しの余興であった。
「──何故じゃ? 何故暇潰しと言うんじゃ? ワシを倒す事が不可能に近いからか? そんな事はないぞ、確かにさっきはトップレベルの気聖使いの2人が倒せなかった熊の魔獣をワシは触れただけで倒したが、天上の山で切磋琢磨を繰り返せばいつかワシに届くかもしれんのだからのう。ワシは長生きじゃ。あと100年は生きている気がする。だから、それまでにはワシを倒せる強者が育つ筈なんじゃ。だから、誰か、ワシと戦ってくれ!」
やはり、結局は仙人が暇だかららしかった。
けれど、今日はそんな暇な仙人の家に珍しく客が訪れていた。寒いのに家(瓦礫の山)には入らずにオレンジ色のダウンジャケットの中に身を縮めながら耐えているボサボサ髪の青年と、その両脇に立っている小さなぬいぐるみ2体が。
時の魔法使いミヨクと、ゼンちゃんとマイちゃん。
「おっ、やっと帰ってきたか。お前、暇人のくせに外出するなよ。相変わらず家の中は狭そうだから外で待ってたんだから。ロシ仙人」
「ホッホッ。100年ぶりか? 時の魔法使いミヨク」
ミヨクの悪態にも仙人は嬉しそうに応えた。良い暇潰しが来た、と本当に嬉しそうに。
「どうだろう? 100年経つかな? ゼンちゃんは会った事がないって言ってるから、少なくとも50年は経っているだろうけど、いつぶりかは覚えてないや」
「ホッホッ。なんでもいいさのう。会えて嬉しいぞミヨク。それとその小さな友達ものう」
「オイラはゼンちゃんだ」
「オラはマイちゃんだよ。初めまして、仙人」
「ホッホッ。可愛いのう」
そう言ってゼンちゃんとマイちゃんを抱きしめる仙人。ゼンちゃんは「よせよ、男に可愛いなんて言うんじゃねー」と嫌がっていたが、仙人の抱きしめる力からは逃れられないようで、もがいて疲れて観念したようだった。
「ホッホッ。ところでミヨク、その姿は幾つじゃ? 前に会った時はワシとあまり変わらない禿頭じゃったのに──」
「25歳くらい、って前回ハゲてたっけ? じゃあ、その時は62歳過ぎだね。俺、60歳くらいから凄く地肌が目立つようになるから」
「そうか。それで今日は何用だ? わざわざワシに会いに来たんじゃ、どんな大事な用じゃ?」
どんな暇潰しをしてくれるんだ? と、瞳を蘭々と輝かせているような、していないような。
「うん。ただ顔を見せに来ただけ。この大陸に来る用事があったからね。特に大事な用はない。仙人の家はとても休まらない程に狭いし、外は寒いからあと2時間もしたら山を下りていくよ」
「えっ……そ、そうなのか……」
仙人は物凄くがっくりと落ち込んだ。
「あっ、そうだ。一応は仙人にも伝えておくけど、俺、夢の魔法使いに予知夢を見せられたんだ──」
「予知夢? あの100%的中のか。ほう、それで?」
仙人の卵顔がまた嬉しそうに輝く。
「ラグン……ラグン・ラグロクトがもうすぐ復活するってさ」
その瞬間、仙人はゴハッと呼吸が激しく乱れた。
「えっ? そうなの? あの、お主や空間の魔法使いと同じで“世界の三大厄災”の1人に数えられるあのラグン・ラグロクトが復活するのか? ワシが生まれた800年前に世界の人口の半分を滅ぼしたあの最悪な奴が?」
「そう、そのラグンが。ファファルと同じで俺の時間を止める魔法が通用しないあのラグンが。まあ1年半くらい前に封印の魔法使いが死んだからある程度の予想はついていたんだけどね」
「それ! 凄く大事なことじゃないか!」
仙人は実に数年ぶりに声を張り上げた。
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