第27話 ギンロシの大陸の仙人②

 

 このギンロシの大陸には国は無く、統治者も存在していなかった。何故ならここは元々は唯1人の住処だったから。


 今は仙人と呼ばれる唯1人の。


 強大な力を持つ者であった。存在しているだけでその威力が広範囲に溢れ、それに当てられるだけで他者は体調に害を及ぼされた。


 故に仙人はここにひっそりと住んでいた。その溢れ出る力で無駄に誰も傷つけないように。


 ──だが、この強力な力には1つだけ誤算があった。それは、仙人のこの力に触れた幾人かはその恩恵が受け取れるというものであった。


 仙人の力の恩恵、今では“気聖きせい”と呼ばれるこの世界で魔法と並び称される力を。


 それがこの大陸に世界中から多くの人々を集めた理由であった。争いの絶えないこの世界で力を求める事は自然であったから。


 樹海の周りに町や村が出来たのもその為であった。人が集まる所に好機を見出した商売人や、気聖を受け取る事は叶わなかったが仙人が住んでいる地なら安心安全と考え集ってきた者たちによって。


「凄いよな、仙人って。人目を忍んでこの大陸のあの山に住んだだけで、人が大勢集まって1つの国みたくなったんだから。前にこの大陸に来た時は会いに行かなかったから見た事がなかったけど、今日は会いに行くんだろ?」


 キースの町から離れ、樹海へと向かう道中でゼンちゃんがそう言った。


「うん。前回も、実はその前も忙しくて会いに行ってなかったから、今日くらいはね。長生きしてる同士で仲良くしておきたいし」


 ミヨクがそう答え、先頭を歩くマイちゃんはまだ誰も踏み潰していない雪道を楽しそうに踏み歩いていた。


「──けど、正直ちょっと面倒くさいんだよね。仙人に会いに行くのって」


「そうなのか?」


「うん。仙人の溢れ出てる強大な力、気聖はその範囲があの山から樹海まで届いているんだけど──つまり人がその気聖を得る為には樹海に入ればいいって事になるんだけど、気聖って1回受け取ってそれで終了ってわけじゃないんだよね」


「ん? 話が見えねーな。どういう事だ?」


「気聖は魔力と同じでその最大値をどんどん増やす事が可能なんだ。その条件は仙人の気聖を長時間浴び続ける事か、気聖を持つ者から奪う事。時間効率がいいのは後者の方で、だから樹海の中には気聖を使う者たちが沢山いて、常に争い合っているんだ」


「気聖を使う者たちの巣窟って事か? だったらオイラたちが樹海に踏み込んだらその気聖を使う者たちの争いに巻き込まれる感じか?」


「うん、おそらく。邪魔者排除って感じで。しかも気聖を使う人たちって魔力が全くないんだ。それも気聖を得る条件の1つだから。だから案外と多いんだよね、魔法使いが嫌いな気聖使いたちが」


「……なるほどな。それは面倒くさいな」


「うん、かなり。っで、こんな話をしていたら、なんか別に仙人に会いに行かなくてもいいかなって思い始めてきて、どうだろうゼンちゃん?」


「どうだろうって、オイラは別にミヨクが決めた事には反対しないが──あっ! マイは?」


 先頭を歩くマイちゃんは今まさに樹海に一歩を刻もうとしていた。


「あっ、ま、マイちゃん! その先は危険だから、ちょ、ちょっと待──」


「ミョクちゃん?」


 そう言って振り返るマイちゃん。


 そして、


「──うん、分かった。オラ気をつけるよ」


 と笑顔で答えると、しっかりとその意を汲むように気をつけながら慎重な足取りで樹海へと一歩を刻んだ。


 その刹那、どこからか現れた複数人に一瞬にして囲まれた。

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