冤罪で国を追放された勇者は姫を連れてもう一度旅を始める。
田中又雄
第1話 国外追放の勇者
「まさか、姫を無理やり襲うなんて...いくら勇者でも許されることではありませんよ!」
「そうだそうだ!」
「野蛮すぎる」
「こんなやつ死罪だ!」
大衆の面前で行われた裁判。
これは全て仕組まれたものである。
俺はただ、昨夜姫に呼ばれたから部屋に行っただけだ。
そして、お酒を少し嗜んで、眠くなって寝て起きたら手足を拘束され、冤罪で裁判にかけられていた。
仕組んだのは恐らく、王だ。
理由は分かっている。
たった一人で魔王を倒したことで俺は国民からの熱い支持を受けていた。
そうして、多くの国民が国王の一人娘であるレイナと俺の婚約を望んでいた。
正直、俺は結構レイナのことが好きだった。
上品な立ち振る舞いも、きれいな顔も、寂しげな表情も...。
しかし、国王、そしてレイナも俺のことをよくは思っていなかった。
理由は血統だ。
俺は勇者だが、生まれは平凡な家系。
王族の血にそんな平凡な家系の血を入れることを嫌っていたのだ。
だから、こうして冤罪をでっちあげられ、裁判をしていた。
この裁判の結果はすでに分かっている。
恐らく、国外追放。
死罪ともなれば俺が何をするかわからないからこそ、そういう処分で済ませるはず。
まぁ、国からいなくなりさえすれば、どっちも変わらないということだろう。
しかし...信じていたんだがな。レイネのことは。
何もしていない俺にそんなゴミを見るような目で見ていた。
『いつか、あなたが勇者となって帰ってきたら...その時は私を...』
あんな言葉も最終的にはこうするための演技でしかなかったんだなと思うと、胸が苦しくなる。
バカみたいな話だ。本当に...。
これでよかったんだ。
「静粛に!...裁判の結果を言い渡す。勇者ライル。貴様を国外追放とする」
罵声とともに俺は城を後にした。
きっと、俺が賢い勇者であればもっとうまいことで来ていたのだと思う。
俺は強くても賢くはなかったから。
そうして、門の外に出たところで、手錠を外され、二度と『ジュネーリ国』に入らない/関わらない、またジュネーリ国も勇者とは関わらないという魔法契約を結び、祖国を後にした。
さて、これからどうしようか。
そうだな...また旅を始めよう。新しい旅を...。
世界にはまだまだ魔族が残っている。
その残党を撃ちながら、のんびり、自由気ままに生きようじゃないか...。
そう思っていると、後ろから服の袖を誰かに引っ張られる。
振り返るとそこに居たのは王の一人娘であり、俺をはめた張本人のレイネが居た。
「ライル様!これが外の世界ですか!すごいですね...!私、初めて外の世界を目にしました!」
「...え?」
なんで、彼女がここに?どうやって?ていうか、何が目的で...?
「...ちょっと...その目...もしかして、私が本気でライル様を裏切ったとか思っていたわけじゃないですよね?」
「いや...でも...」
「そんなの演技に決まっているじゃないですか。お父様は絶対ライル様との結婚を許してくれませんし、私を外に出す気もなかった。だから、私がライル様と一緒に居るにはこうするしかなかったんです。でも...私はライル様なら私の真意に気づいてると思ったんですけど...。さすがに傷つきますよ」
いや、傷ついたのは俺のほうなのだが...。
「じゃあ...言ってくれればよかったのに」
「言ったらライル様、演技できました?なんか胡散臭い芝居とかしそうだったので、一応内緒にしておいたんです」
「そうなんだ...。いや、でもやっぱり、一緒に旅をするのは危ないよ」
すると、まるで子供のように頬を膨らませながらレイネは言った。
「私との約束...忘れたんですか?いつか、あなたが勇者となって帰ってきたら...その時は私を...旅に連れて行ってください。そう約束したはずです。だから、約束通りに勇者となってくださったライル様と同じく、私も約束を果たすんです。それに...もう私を返すことはできませんよ?ライル様は契約を結んでしまったので」
国に入ることも、関わることも禁止とする。
「...ここまで全部計算だったりする?」
「はい。10割計算通りです。この後のお父様の行動も含めて。多分、血眼になって私を探すはずです。だから、逃げましょう。これからは勇者様との私の駆け落ち逃避行の旅が始まるのです」
...どうやらお姫様はかなりズル賢いらしい。
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冤罪で国を追放された勇者は姫を連れてもう一度旅を始める。 田中又雄 @tanakamatao01
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