第45話
プラネタリウムデートということでやって来たのは最寄り駅から少し歩いた先にある科学館。
大きなガラス張りの建物が青空を反射し、未来的な印象を与える建物。
ここは科学のミュージアムということで、子供から大人まで楽しめる場所だ。
入り口広場を見渡すと家族連れが多く見られるが、意外とカップルも多い。多いと言っても、有名なテーマパークや繁華街ほどではない。
だからだろうな。入り口にある撮影スポットで、バスケの練習着を着ている奴が記念撮影してるから悪目立ちしてらぁ。
幸いにも、葵は気にも止めてない。
「ごめん、葵。先入ってて。トイレ」
「ん」
適当な言い訳をかまして俺はそそくさとトイレの方に向かうフリをして、呑気に記念撮影をしている怪しいバスケの練習着の奴のところへ駆け足。
「なにをやっとるんだ、天枷」
「せっかく写真映えスポットがあるんだから写真撮りたいと思って」
「インフルエンサーかっ!」
こちらのツッコミの後、写真をお願いしていたのであろう女性が、「お二人さん。スマイルー」とノリよく言ってくれるので、反射的にピースしてしまった。
「ありがとうございますー」
「いえいえー」
天枷が優しいお姉さんにお礼を言いながら自分のスマホを返してもらい、先程の写真を確認する。
「良く撮れてるねぇ」
言いながら天枷が自分のスマホをこちらに見してくれる。
そこには俺と天枷のツーショットが楽しそうに写っていた。
「あら、ほんと。じゃないわい!」
危うく天枷のペースに流されるところだった。
「きみ、なにしてるの?」
「きみの恋を陰ながら成就させに来たよ」
「いや、まぁ、そこら辺のことは置いておいてさ。それならなんでそんな格好なんだよ。隠れる気なしかっ」
「だってしょうがないじゃない。さっきまで部活だったんだし。女バスダッシュを使ってギリギリ間に合ったんだよ」
えっへんと威張っているが、別に威張ることではない。
「その格好で入るのか?」
「もちろん」
曇りのない顔で頷かれても困る。
「葵にバレるぞ」
「バレそうになったら反復横跳びするから安心して」
シュッシュッとその場で反復横跳びを披露されてしまう。
彼女にとって反復横跳びは信用に値するのだろうが、俺には彼女ほどに反復横跳びを信用することはできない。
「さ、福井くん。耳にイヤホンして」
「なんで」
「そうしないと私のフォローが聞けないじゃない」
「フォローなしの方が上手くいくかも」
「あ、なるほど。もう長谷川さんへの愛の告白を考えて来てるのだったら私のフォローはいらないね」
この子ったら煽るのがお上手なんだから。
「そんなもんは考えてねぇっての。ったく」
素直にワイヤレスイヤホンを付けると、「よしよし」と天枷は満足気に頷いた。
「さっ、『福井くんと長谷川さんの幼馴染ラブラブカップル物語大作戦』の開始だよっ!」
「ネーミングセンス無さすぎるだろ」
♢
科学館に入るとすぐに吹き抜けの大きなロビーが広がっていた。入り口付近のベンチに葵は姿勢正しく座ってスマホを見ている。
「お待たせ葵」
「んー。天枷さんはもういいの?」
「ああ……って、気付いてた?」
「そりゃバスケ部の格好したどちゃくそ美人がいたら目立つわよ」
あははー。余裕でバレてんぞー。
耳にしているワイヤレスイヤホン越しに、「天枷ー」と呆れた様子で呼ぶが応答はなかった。
「おい、天枷」
『あ、もしもし。ごめんなさい。観光客さんに記念撮影頼まれて受話器離してたよ』
こいつはずっと写真撮ってんな。
『どうかした?』
「もう──」
説明しようとしたところで葵が、「しーっ」とするので、ここは彼女に素直に従うことにしよう。
「もうすぐ中に入るから天枷も適当に入れよー」
『はーい』
その返事を受けてから、ワイヤレスイヤホンのマイク機能をオフにする。
「じー」
葵がジト目で見てくる。
「どうして天枷さんがここにいるのよ」
「これは違うんだ。なんて言うか、どう説明すれば良いのやら」
言い訳するのにも上手い言い訳が思いつかず、しどろもどろになってしまう。そんな俺を見て葵は小さく吹き出した。
「別にいいわよ。私だって──」
言いかけて、コホンと咳払いで言葉を止める。
「とにかく、気にしてないわよ」
葵も同じようなことを天枷にもしたもんだから別に気にしないってわけか。
「ただし」
葵は耳元をトントンと叩いた。
「天枷さんの指示に従うこと」
「葵の言うことは聞く。だけどどうして?」
「あんたと天枷さんが何を企んでるかわかんないから、天枷さんが龍馬に出す指示で何を企んでいるのか当ててやろうと思って」
天枷がどんな指示を出すかの詳細はわからんが、俺と葵をくっつけるために来たんだ。それ相応の指示を出してくるのだろう。
あかん。詰んだ。絶対バレる。
しかし、俺に断る権利なんてなかった。
「わ、わかったよ」
「よろしい。じゃ、行きましょ」
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