葵デート編(愛理フォローver)

第42話

 シャッとカーテンを開けると朝日が部屋を照らし出す。


 妙に片付いている俺の自室。まるで初めての彼女でもこれから連れ込むかの如く綺麗にしてある。だが、残念ながらそんな予定なんてない。


「終わったな……」


 新しい一日を告げる朝日に対して失礼な言葉を放つ。しかし、それも許して欲しいというもの。


 中間テストが終わったのだ。色々な意味で。


 自己採点では赤点を回避しているかしていないか瀬戸際の教科がいくつかある。もし赤点を取れば補習なんぞに出なければならない。


 部屋が妙に片付いているのは、気分転換という名の現実逃避。普段掃除なんてしないくせにこういう追い込まれている時に掃除や模様替えをしたくなる。


 過ぎ去った中間テストのことを考えても仕方ない。あとは神に祈るだけということで、さっさと準備を済まして家を出る。


「おはよ」


 家を出ると、いつも通りに葵が待ってくれていた。


 律儀に彼女という設定は守ってくれているのだろう。真面目だからな、この子。


「おはよ、葵」


 挨拶を返していつも通りに並んで学校へと向かう。


 学校に近づくにつれて、俺達と同じ制服を着た人達を見かける。少し前までなら、特異な目で見られていたのだが、中間テスト期間から徐々にそういうのは減って来ていた。


 校内に入る。


 中間テストが終わり、なんだか周りの様子は一安心といった様子で落ち着いている。そんなんだから、俺達が学校の廊下を歩いていても。


「中間テストどうだった?」


「数学がやばめー」


「あの問題きもすぎでしょ」


「あんなん範囲に入ってないし」


 とまぁ、中間テストの名残があり、俺なんか眼中にないみたい。


 このまま俺達の噂は消え失せちまえと小さく願いながら自分の席に座る。


 葵は自分の席には向かわずに天枷の方へと足を向けていた。

席に着いて、なんとなく二人の方を見てしまう。


 天枷と楽しそうになにか喋っている葵を見て、勉強会を通じて仲良くなってるなぁとか小学生並の感想を思う。


 そんな目で見るのは俺だけではなかったみたい。


「長谷川さんと天枷さんはここ最近一緒なのを見かけるでござるな」


「福井殿の一件以来、あっちの仲が急接近して目の保養が捗るなりねぇ」


「ろろろろ、ぶっころぉ」


 男子三人衆のいつもの呟き頂き、俺自身も目の保養に謹んでいるところで、天枷が俺の視線に気が付いたみたい。


 目で葵を差している。おそらくだが、さっさとデートに誘えと訴えかけているのだろう。


 天枷の視線に気が付いた葵がそのまま俺の方を見ると、天枷に手を挙げて一言断わりを入れてから、俺の前の席に鞄を置いた。


「なに見てんのよ」


 ジト目で言われてしまう。


「最近、天枷と仲良いなぁと」


「誰かさんに二股かけられてる同士だからじゃない?」


「おい。落ち着いているところなのに、その話題を出すんじゃない」


「だったら、違う話題で私を楽しめなさいよ」


「己は女王様か」


「当たらずとも遠からず」


「アメリカくらい遠いだろ」


 とかなんとかいつも通りの会話を広げていると、天枷の方から上目遣いでこちらを見てくる様子が視界に入る。なんで上目遣いでこっちを見つめてくるのか一瞬わからなかったが、おそらく威圧しているのだと思われる。あの子、心が穏やかな子だから威圧が苦手なのね。


 葵のお題変更の依頼と天枷からのプレッシャーを受け、二人のお望み通りに話題変更をしてやることにした。


「前、言ってたプラネタリウム、次の休みで良いか?」


 尋ねると、葵は鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔を見した。次第に、あわあわと焦り出すと同時に、少しずつ顔が赤くなっていった。


「ちょ、な、なんでこんなところで言うのよ。他の人に聞こえたらまた勘違いされるわよ」


「この話題は楽しめましたか?」


「ぜ、全然楽しくないわよ」


 ふんっと怒ってしまい、「なんでこんな人が多いところで……へへ」と最後はちょっと笑い声が聞こえてきた気がしたが、背を向けているので表情は見えない。


「次の休みは無理だったか」


「い、行けるわよ!」


 すぐに振り返ってくる。


「ほんじゃ、次の休みで決定な」


「う、うん」


 葵は少し恥じらいながら頷いてくれた。

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