第41話

 中間テストの日が近づくにつれて、周りは自分のことで手一杯という雰囲気が出てくる。俺が葵と天枷と二股しているだとかなんとかってのは話題に上がらなくなっていった。


 だが、一難去ってまた一難。


 葵は設定を守るために暴走モードに突入しているし、天枷は俺と葵をくっつけようとするし、風見は葵が好き宣言をするし。


「テスト勉強なんてできっかよ、ちくしょうが」


 机に向かっていたところでペンを転がしてギブアップ。


 ここ最近、ぼっちにはキャパオーバーな出来事が起こりすぎている。こんなイベント盛りだくさんで勉強に集中なんかできない。とかなんとか言うのはただの言い訳だ。


 自分自身に都合の良い言い訳を並べてスマホを操作する。気分転換にスマホをいじっていると、普段は震えない俺のスマホがいきなりバイブレーションを発動させて心臓が止まるかと思った。


「天枷?」


 俺のスマホを震えさせた犯人は学園の二大美女がひとり、現在は俺の彼女なんてあり得ない設定になっている天枷愛理。


 女バスの美女様がぼっちに電話なんて非現実的だが、現実に起こっているのを神に感謝しつつ応答してみせる。


「もしもし」


『もしもし。ごめんね、こんな夜遅くに。寝てなかった?』


「夜遅くっつっても、まだ夜の10時だぞ」


 ゴールデンタイムと呼ばれる時間帯だ。寝るにはまだまだ早い。


『あ、そっか。もうすぐ中間だから夜更かしして勉強しているんだね。感心、感心』


「通常時でも起きてるっての」


『え、そうなの? 福井くんって夜型の人なんだね』


 この程度で夜型と言われると、日本人のほとんどは夜型ということになるな。


「天枷はいつも何時に寝ているんだ?」


『9時かな』


「小学生!?」


『あはは! よく言われるー』


 彼女からすると夜の10時は夜更かしだからか、テンションが高い。


『いつもは朝練があるからね。4時起きなんだ』


「あ、なるほどね」


 それなら納得か。運動部の朝は早いもんなぁ。それに睡眠は成長に必要不可欠だから、運動部ってのは早寝早起きの人が多いよな。


『今日は中間テストの勉強を言い訳に夜更かししているのです』


 どうだ悪いだろ自慢みたいな言い方が、小学生みたいで笑いそうになってしまう。


「絶賛夜更かし中の悪い天枷が俺みたいな夜型の人に電話なんてどうしたんだ?」


『あ、そうそう。私、ふと思い出したのです』


「なにを?」


『福井くんったら、全然私に電話してこないんだもん』


「そりゃ彼女でもない女の子に電話ってのはハードルが高いだろ」


『今は彼女ですよ?』


 学園の二大美女様は設定が大好きみたいだな。


「設定の彼女に電話なんて勘違いクソ野郎と思われそうだろ」


『それって、私のこと?』


 勘違いしていたことをまだ引きずっているのか、天枷がなんとも微妙な声を出していた。電話越しでもわかるが、おそらく顔を赤くして悶えているのだろう。


「いや、そうじゃなくてだな……つうか、仮に付き合っているとしても、理由もないのに電話なんてできんだろ」


『それはそうだけど、相談してって言ったのに全然相談してくれないのは悲しいな』


「相談……あー……」


 相談ってのは、俺と葵がくっつくためのことを差しているのだろう。


「それは中間が終わってからだろ」


『そうだけど、今は中間よりそっちの方が大事だと思うんだよね。あと、勉強したくない』


 なるほど。最後の言葉が真実というわけか。俺だって今し方ペンを転がしてギブアップしたんだ。天枷に勉強しろなんて言えないよな。


「葵との件は色々と落ち着いたら考えるよ」


 天枷の思惑に乗ってやることにする。なんて相手のせいにして、本当は自分も勉強がしたくないだけである。


『それでは遅いのだよ、ワトソンくん』


 この子、ワトソンくん好きだな。


『いい? 女の子とはスピード勝負。告白するのなら時間との勝負なんだよ』


 仮に俺が葵のことが好きと自覚しているのであれば、幼馴染というポジション上、その理論ではアウトなのではないだろうか。


『だから、中間テストが終わったらデート。これに限るよ』


 デートと聞いて、そういえばプラネタリウムに行く約束をしていたことを思い出す。あれはデートという概念で誘ったわけではないが、客観的にみると立派なデートと言えるだろう。


「そうだな」


『お、ノリノリだねぇ』


「実はこの前、葵とプラネタリウムに行く約束をしてたんだよ」


『流石福井くん。ぼっちは手が早い』


「褒めてないぞー」


『それじゃあ、土曜日のお昼に駅前に集合して、都心の大きなプラネタリウムに行こうね』


「おい待て。なんで天枷が決めてんだよ」


『え、私も行くから』


「ちょ、付いてくんのかよ!」


『当然です。福井くんがヘタレを発動させた瞬間にケツを叩いてやるのです』


「お節介って知っている?」


『世話焼き女房って感じでしょ?』


 それだと俺とお前がくっ付いていることになるんだぞ。


「はぁ。付いてくるのは良いんだけど、せめてバレないようにだけしてくれ」


『ガッテン』


 大丈夫かな、この子……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る