第34話
「りー。なんだか凄い噂になってるよ」
「めちゃくちゃになってるよね」
部活の休憩時間。私──天枷愛理の小学生の頃からの親友であり戦友の、みーこと
ちなみに、私達のあだ名は名前の最後の文字を伸ばす法則性がある。どうしてこうなったかは、覚えてないや。
「ほんと、なんでこんなにも変な噂になったのかな……」
バスケットボールをダムダムと弾ませながら、ため息が漏れてしまう。
遠足が終わってから、福井くんと私、そしてなぜか長谷川さんの噂が立ってしまった。
そもそもの発端は風見くんである。
あの人がやたらと福井くんに絡んで自爆した。たったそれだけのことなのに……。
『俺の好きな人が傷つくようなことしてんじゃねぇよ!!』
かぁぁぁ──
自分でもわかるくらいに頬が熱くなる。
あんなに堂々と告白されたのは初めてだった。
自慢になるかもしれいけど、私はよく男の子に告白をされる。
男の子達にとって私の顔は好みだって言ってくれる人が多いみたいだ。
ただ、それだけ。
たったそれだけのことで好きだとか、付き合ってとか言われても色々と困る。同性からは反感を買うし、異性からは高嶺の花だとか言われる。しまいには学園の二大美女なんて面白がられて呼ばれる始末。
本当に迷惑している。
恋愛に興味がないわけじゃない。むしろ興味しかない。でも、恋愛とバスケを両立させたいって思える人が現れない。私は、恋もバスケも両方頑張りたい。
そんなことを思っているところで……。
「『俺の好きな人が傷つくようなことしてんじゃねぇよ!!』だもんね」
「へ……」
考えていたことをみーが口に出して言うもんだから、ドリブルをミスして、きーのところへ転がっていった。
「なぁに動揺してんのさ、りー」
笑いながらいつものパスをくれてボールを返してくれるきー。そんな私を見てみーが笑いながら言ってくる。
「もしかして福井くんに惚れちゃった?」
「な!? ん、にゃ……!」
自分でも、どっから出たんだと疑問に思う変な声が出てしまう。その声を見逃すはずがないきーが、ニタニタとしながら聞いてくる。
「あれあれ? もしかして、本気でー?」
「ち、ちが……」
否定したい事柄なのに、全然声にならなくて、みーときーの二人で盛り上がる。
「りーの初カレが福井くんかー」
「まー、良いんじゃない? 福井くんってなんか無理してない感じするし」
「あ、わかる。いつも一人だから絡みにくいけど、絡んだら全然喋れるタイプだもんね」
「ちょっと大人っぽいし、全然アリでしょ」
「りー、応援してるよ」
ぐっと親指を親指を立ててくる。
「ち、違うから。そう言うんじゃないから!」
ブンブンと首を横に振る。
そんな私を無視して、二人は更に盛り上がる。
「さっさと返事しろよー」
「そうだ、そうだー」
「『私も福井くんのこと良いと思ってた。だからよろしくお願いします』」
「『天枷。嬉しいよ。俺、お前のことずっと大事にするから』」
ガシッと抱き合う二人。
「「きゃあああ♡♡」」
「もー! 良い加減にしないと怒るよー!」
そう言うと、「「ごめん、ごめん」」と謝ってくるが、これが口先だけってわかるのも、付き合いの長さからだろう。
「でもさ、まじな話すると、今はそんな可愛いもんじゃないくらいの噂になってるよね」
「だよね。福井くんが二股とかって話になってるし。どっから出たんだよ、そんな話」
「福井くんと長谷川さんって幼馴染ってだけでしょ。モテない男子なり女子が面白がって適当なこと抜かしたんでしょ」
「ほんと、暇な奴等ばっか」
「気を付けなよ、りー」
「うんうん。特に、りーと長谷川さんは面白がられて学園の二大美女とか言われてんだから」
「変なファンクラブもあるって聞くよ。なんかあったらすぐウチらに言うこと。わかった?」
「みー、きー。ありがとう」
幼馴染の絆を確かめあっているところで、「あんたら!」という嫌な声が聞こえてくる。
そしてガシッと肩を掴まれて私を思いっきり睨んで来るのは、三年の西澤先輩だった。
「あんま調子乗ってんなよ。さっさと練習しろ」
それだけ言うと、西澤先輩は体育館を出て行った。
「うっざ。なんでりーにだけ言うんだよ」
「りーからレギュラー奪われて悔しいのはわかるけど、悔しいならプレイで取り返せよ」
私よりも幼馴染二人が怒ってくれるだけで十分だった。
苦手な先輩には違いないため、早く引退して欲しいとは思う。
けど、今は苦手な先輩のことなどどうだって良かった。
♢
二年六組のクラスメイト達はみんな良い人なのか、それとも噂の当事者達全員がこのクラスにいるからなのか。どちらかわからないけれど、この教室からは噂の声は聞こえて来なかった。
思うところがある人はいるのかもしれないが、声に出さないだけで当事者としては助かる。
教室の窓際の席の一番前。二年になり定位置になりつつある席に座り、呆けた頭で遠足の日のことを思い返す。
『俺の好きな人が傷つくようなことしてんじゃねぇよ!!』
遠足の後から彼とは喋っていない。どうしたら良いかわからないからだ。
そもそも、今は噂が変な方向に流れてしまい、それどころではないのが現実だ。
この噂が収まるまでは、なにもしないのが得策なのかもしれない。
「天枷さん」
珍しい声が聞こえてくる。
私の前に現れたのは、長谷川葵ちゃん。
可愛いアイドルみたいな女の子。今まで生きて来た中で、ダントツに顔が可愛い女の子。それでいて、かなりの努力家。
長谷川さんがテニス部に所属していてる時、一人で居残り練習をしているのを何度も目撃している。朝練も、誰よりも早く来ているのを知っている。
顧問が変わったせいで練習頻度は極端に落ちてしまった不遇さがある。この人のためになにかできないか。もし、頼まれたら、なんでもやりたいと思わせるほどに、魅力的で、努力家な女の子。
そんな彼女が私に話しかけるなんて珍しい。
「どうかした? 長谷川さん」
「私達、変な噂流されちゃってるじゃない」
「そうだね。めちゃくちゃ変な噂が流れてるよね」
「だからね、その、一緒に中間テストの勉強会をしたいなぁと思って」
「へ?」
ええっと……あれ? 噂の話から中間テストの話に変わった?
「どういうこと?」
話が明後日の方向に飛んだので、改めて聞いてみることに。
「私と天枷さん、そして龍馬って噂の中心じゃない」
「そうだね」
「だから同盟を組んで、テスト勉強がしたいと思って」
「同盟……」
ぷっと吹き出してしまう。
「噂と勉強会ってあまり関係がないと思うんだけど」
「あ、ええっと……あははー、そ、そうよねー」
私の指摘に長谷川さんは、「まずいわね。どうしよう」と焦っている様子であった。
「別に嫌ってわけじゃないよ。むしろ、長谷川さんと福井くんで勉強会したい」
「良いの?」
「うん」
長谷川さんの頼みはできる限り叶えたいと考えていたところだし、福井くんがいるなら良い機会だ。
学校では変な噂が流れて中々聞けないし、LOINするのもどう文章を書けば良いのかわからなかった。だから、この勉強会で遠足での件を聞きたい。
「き、決まりね」
ホッと安堵の息を漏らす長谷川さん。それの意味は私にはわからなかった。
「それじゃ龍馬に報告しに行くわ」
「あ、私も行って良い? よろしくって意味で」
遠足から喋れていなかったため、いきなり勉強会で顔を合わすより、予め顔を合わせておいた方が遠足のことを聞きやすいと思った。
「わかったわ。でもあいつ、昼休みはどっか行くのよね」
「孤高の存在だから一人の場所を求めて彷徨ってるのかな?」
「天枷さん。それを人はぼっちと呼ぶのよ」
長谷川さんから孤高の存在というのは、ぼっちと呼ぶことを教えてもらい、私と彼女で福井くんを探すことになった。
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