第30話
先生から応急処置をしてもらってから班のところに戻ると、とっくに騒ぎは落ち着いており、各クラス、各班に分かれてバーベキューを楽しんでいた。
「福井くん、手大丈夫?」
戻った矢先に武田が開口一番、心配の声を出してくれる。
「こんなんになっちまったけど」
手のひらを包帯で巻いてもらった姿を見せると井上が険しい顔をする。
「うわー、痛そー。本当に大丈夫なの?」
「大袈裟に巻いてもらっただけだよ」
「福井くんって右利き?」
「そうだけど」
「じゃあ」
武田と井上が同時に天枷を見ると、含みのある顔をしながら煽るように言い放った。
「「りーがご奉仕してあげないとねー」」
おいおい、ご奉仕って……。
「うん。福井くんがいなかったら、今頃私の顔に火傷になってただろうし、それくらいはするつもりだよ」
え、うそ。天枷がご奉仕してくれるの? まじに?
「「りー、顔真っ赤―」」
「や、やや! こ、これは! お肉が熱くてさ!!」
「「う・そ」」
「くうぅぅ……」
学園の二大美女様がおもちゃにされている。これは女バスの幼馴染という関係性が成せる技なのだろう。
こういう関係性も良いもんがあるよな。
一方、そんな盛り上がりを見せる女バス幼馴染とは正反対に盛り下がってしまっている男子陣。
まるでお通夜みたいにバーベキューをしているのはなんとも悲惨な状況だ。
「福井。酷いのか?」
岩本が心配するように言ってくれる。
「見た目だけだよ」
「そうか。悪かったな……」
「なんで岩本が謝るんだよ」
「……一応、蓮とは友達だからな。止めてやるのも友達の務めのはずだが、今回俺はなにもできなかった。おかげで天枷を危険な目に合わせ、結果、福井に怪我をさせてしまった。すまない」
情に熱いやつなんだな。こんな友達を持てて感謝しろよ風見。
なんて思いながら彼の方を見る。肝心の加害者本人はなにも言ってこない。ただただ俯いているだけだった。まるで日本の縮図だぞ、おい。
でも、流石に濡れた服を着ているのは嫌だったのか、俺の渡した服を着ている。
「うわー、風見の服だせー」
「あんなよくわからない英語が書かれた服を未だに着ている奴がいるんだな」
おい、間接的に俺にもダメージが入るから、いじらないでくれ。ちなみに翻訳は、『イケメンのスカンク』らしんだよ、どちくしょうが。
「顔が良くてもさっきのがやばかったよな」
「くんにゃあああ!」
「あはは! それそれー。ださすぎワロタ」
「今まで顔だけで生きて来た奴の末路だよな。ざまぁ」
散々な言われように普段の風見なら、「黙れ陰キャ共!」だなんて暴れ出すのだろうが、ただただ俯いてしまったいた。普段陰キャとバカにしている陰キャみたいになってるぞ、風見。
♢
高校二年の最初のイベントであるバーベキュー遠足が幕を閉じた。
なんともグダグダ感は否めないが、その後は特に何事も事件は起こらずに平穏に時間が過ぎてくれた。それというのも風見がずっと大人しかったおかげかもしれないな。ほんと、変なイキりが意気消沈してくれると世の中って上手く回ってくれるよね。
なにはともあれ、遠足が無事に終わって良かったとしよう。
いや、風見にとっちゃ今回の遠足が学生生活のターニングポイントだったと言えるため、悲劇で終わったというべきか。
この遠足で風見の評価は地に落ちてしまった。
風見がださい奴ということ、人に危害を与えるやばい奴、ファッションセンスが終わっているという認識が広まり、学校で孤立していった。最後のファッションセンスについては間接的に俺へとダメージが入るんだが……。
風見ファンクラブの奴等も、どれだけ顔が良くとも変な噂がある奴には用はないみたい。遠足の日からあからさまに風見とは距離を取っていた。自分達に変な噂が流れてしまうのに恐れているってことだよな。ほんと、金の切れ目が縁の切れ目みたいな扱いを受けている。顔だけで生きてきた奴の末路だ。ま、因果応報だな。
風見が孤立しようがなんだろうが、俺がぼっちなのには変わりない。遠足というイベントでは班の連中と沢山喋ったりしたが、日常に戻れば元通りさ。
でも、なんとなく女バスの武田と井上は、目が合うと挨拶はしてくれるようになった。遠足で同じ班になったよしみってやつかね。
まぁ俺がジェネリックぼっちってのに変わりはない……。
──いや、ただのジェネリックぼっちに戻ったわけではない。
俺は不本意にも噂の尾ひれが付いたぼっちに生まれ変わってしまった。
なぜ俺の二つ名は変化してしまったかというと──
風見をボコボコにした福井龍馬。
学園の二大美女である長谷川葵と幼馴染で付き合っている福井龍馬。
学園の二大美女である天枷愛理に公開告白して付き合った福井龍馬。
学園の二大美女を弄ぶ福井龍馬。
学園の処刑対象の福井龍馬。
──どうしてこうなった……。
遠足を終えて俺の学園生活はどうなってしまうのだろうか。
助けて! アイえもーん!!!
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