第28話
気を取り直してバーベキュースタート。
俺が火の様子を見ている間、調理係の岩本と武田、女子の班長である井上と、女子の食材係である天枷達でバーベキューの用意をしてくれていた。
風見は不貞腐れた顔で特になにもせず、風見ファンクラブの女子と駄弁ってやがる。
「すまん福井。俺はこういうのが苦手でな。焼いてくれないか?」
岩本が素直にそう言ってくるもんだから、俺は笑いながら言ってやった。
「なんか納得だわ。逆に岩本が得意の方がおかしいだろ」
「ふっ。見破られたか。福井は良い目をしているな」
「いや、妥当な目だろ」
あはは! なんて良い感じの空気が流れ、そのままの空気を維持しながら女子達が調理したものも受け取ろうとする。
「調理してくれてありがとう。焼くのは俺がやるよ」
「ううん。福井くんは火を見てくれたし、私らもやるよ」
「むしろ福井くんはずっと熱いところにいたんだから休んでなよ」
武田と井上が気を使ってくれる言葉をかけてくれる。
「俺はもう煙まみれだし。みんなは座っときなよ」
「なら……」
「お願いします」
ここで水掛け論に突入しても意味がないと悟った二人は、俺に焼くの任せて素直にテーブルの方へと向かって行った。
言ったからにはちゃんとしないといけないな。そんなわけで、調理係が用意してくれた食材を、じゅーじゅーと焼いて行く。
こうやって焼きの仕事をしていると、焼肉屋でバイトするのも悪くないって思える。いや、焼肉屋って基本的にセルフで焼くからあんまり意味ないのか?
「福井くん。やっぱり手伝うよ」
そう言ってやって来た天枷が腕まくりをしてこちらにやって来る。
「あ、いや──」
「どけ、陰キャ。そんな、陰気臭い焼き方じゃ日が暮れる」
天枷に答えようとしたところで、逆隣より風見が無理やり割り込んで来た。
どんだけ天枷にかっこいいところを見せようとしてんだよ。つうか、その態度がマイナスってことに気が付いてないのか?
「ふっ。良い感じに焼けて来たな」
じゅーじゅーと俺が育てた肉をご機嫌に焼いてやがる。人間性を疑うぞ、おい。
なんて思っているところに、肉の香ばしい匂いに誘われてやって来たのか、数匹の蜂がぶんぶんと風見のところへやって来る。
「へぁ!? うわっ! や、やめろ! こっちくんな!!」
風見大パニック。
蜂が苦手なのか、はたまた虫が苦手なのか、風見はパニックになりその場でブンブンとトングを振り回す。しかし、ブンブンとトングを振れば振るほどに蜂達は風見の周りを更にブンブンと飛び回っている。
「うあああ!」
情けない声を出すのは構わないのだが、風見の奴、みんなの肉やら網やら炭をめちゃくちゃにして暴れ狂ってやがる。
「きゃ!」
「おっ!?」
「ちょっと! 落ち着いてよ!」
クラスメイト達にも被害が及んでいる状況。しかし、そんな声は風見には届かないほどに冷静さを欠いていた。
そろそろ止めないといけない。そう思っているところでだ。
「くんにゃあああ!」
壮大にビビりちらした声で叫びながら、天枷の方へ飛んで行った蜂へ、炭火をトングで掴んでぶん投げた。
「え……」
天枷も唐突のことで反応ができなかったみたいだ。
そのまま炭火が天枷の顔に──。
「危ない!」
反射的に手を伸ばして炭火を払い落とす。炭火は地面に当たり、花火みたいに砕け散った。きたねー花火だ。
「大丈夫?」
「あ、う、うん。ありが、とう、福井くん」
突然のことに天枷は少し放心状態であった。
そりゃ、いきたり炭火が飛んで来たら怖いだろう。天枷に怪我がなくて良かった。
「……っ」
あのクソ野郎。パニックになってるか知らないけど、女の子の顔目掛けて危ないもん投げやがって。顔に火傷の跡が残ったらどうすんだ。
「あ、あああ! 火が、火があああ!」
んで、なにがどうなったらお前の服の袖から火が上がるんだよ、ぼけ。
「だ、だれかあああ! 誰かたすけっ──」
もはやコント状態だ。
この光景を見て、ドン引いている奴もいれば、笑っている奴もいる。
しかし俺の感情は怒りであった。
ポンコツがイキってみんなに迷惑かけてんなよって怒りが腹の底から沸き上がって来る。
近くにあった火消し用の水の入ったバケツを手に持ち、俺は思いっきり風見の頭から水をぶっかけてやる。
「ぶふっ!」
バケツを投げ捨て俺はびしょ濡れになった風見を睨み付ける。
「良い加減にしろよ。俺のことはバカにしてもかまわねぇが、好きな人が傷つくようなことしてんじゃねぇよ!!」
「「え?」」
周りがざわざわとしているのも気にせずに、風見へ思いっきり言ってやる。
「ポンコツは大人しくしてろ!! 邪魔だ!! わーったか!!」
「は、はい……すみません、でした」
どうやら俺の怒りが通じたらしい。
風見はしゅんと大人しくなった。
なんだよ、ちょっと強く言ったらしおらしくなるなら、最初からイキり立ってんじゃねぇよ、バカやろうが。
「はっくしゅんっ!」
そして思いっきりくしゃみをかけられちまう。
「ちっ」
火消しのためとはいえ、こうなったのも俺のせいだ。
仕方ない。俺の着替えを貸してやるか。
鞄から着替えを取り出して服を貸してやる。
「とっとと着替えやがれ!」
「あ、は、はい」
乱暴に服を貸してやると、俺は風見に背を向けて、野次馬達をかき分けてクールに去る。
気持ち足早にやって来たのは水道だ。今は風見のところに野次馬達が集まっており誰もいない。
「あっちいい!! 無理無理!! めっちゃ熱い!! ふー!! ふー!!」
天枷を助けた時はアドレナリンが出ていたのか、なんともなかった。風見にはっきりと言ってやり、スッキリしたところで火傷のような痛みが手のひらからやって来る。
こんな熱いのが天枷の顔面に当たっていたかと思うとゾッとする。これは名誉の火傷ということにしておくか。
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