第24話

 天枷との買い出しイベントが無事に終了した。


 ふぃと一息吐きながら家の冷蔵庫へ食材を入れていく。


 食材はこっちで預かると言ったんだが、「それだと私が買い出し係の意味がないよ」ってことで、半分こして持ち帰ることになった。


「こんなジェネリックぼっちにも優しいだなんて、学園の二大美女様はお優しい方だね」


 ポツリとこぼしながら、食材を全て冷蔵庫に入れ終える。パタンと冷蔵庫を閉めてから、ふと思い出す。


「そういえば、もうひとりの学園の美女様は無事なんだろうか」


 葵の奴、連行されてからなんの連絡もない。ま、あの時はアイリスとして接していたから、設定上、向こうから連絡できないのは理解できる。あっちから連絡してきたら、勝手に起動するバグったアプリだもんな。


「しょうがない……」


 俺は自室に戻り、アプリを起動させる。


 メンテナンス中の文字はなく、すぐさま金髪ツインテールの女の子が画面上に現れる。


「お、シャバに戻ってたか」


『へ?』


「おっと……」


 ついつい口が滑ってしまい、わざとらしく口元をおさえる。


『ど、どど、どういう意味?』


「いきなり警察っぽい人の声が聞こえて来たあと、アプリが強制終了したからなー」


 ここは少しいじらせてもらおう。優等生の葵が警察に連行されるなんてこの先ないだろうからな。


『あ、や、あれはー』


 頭の回転が早い葵はどんな言い訳をするのだろうか。


『え、AIの世界にも警察がいるのよ』


「ほう」


『わ、わた、私はAI界の大泥棒なのよ』


「へぇ」


『泥棒は泥棒でも、恋泥棒。私の美貌は罪そのものなの』


 あ、壊れた。婉容なポージングをノリノリでしているが、顔は真っ赤に染まっている。


『そ、それで、その、そう! 私の美貌に警察官がやって来て事情聴取を開始したってわけよ!』


 やはりこればかりは苦しいか。仕方ない。あんな状況でうまい言い訳なんて思いつくはずもない。つうか、即席でそんな設定に持っていけるだけで天晴れだよ。


「どんな事情聴取だったんだ?」


『ちょっとあんた! 笑ってるけど、すごく怖かったんだからね!』


「なに聞かれたんだ?」


『……なにしてんの? とか、あんまり怪しい格好しちゃダメだよ、とか……ちょっと注意されただけだけどさ……』


 おいアイリス。それは葵の話じゃねぇか? 


『そんなことよりも! あんた、あの後、ちゃんと天枷さんと買い出しできたんでしょうね!?』


 あ、ゴリ押しで話題を変えるスタイルね。良いだろう。ネタは割れてんだし、これ以上警察ネタはアイリスの機嫌を損ねるだろう。


「アイリスがいなくて気まずい雰囲気が流れちまったよ」


 そう言うと、彼女はちょっと誇らしげな顔をして目を光らせた。


『ふふん。やはり私の存在は神に等しいみたいね。讃えなさい』


「ははー。いつもありがとうございますー」


 適当に乗ってやると、『えっへん』とない胸を張ってやがる。


『じゃあ、その後もずっと気まずいままだったの?』


 しかし、すぐに心配したように横目で見てくる。


「んにゃ、最後は別段そんな空気にはならなかったな」


 フリースローが──とか、キーホルダーが──なんて詳細をわざわざ話さなくても良いだろう。


『あっ、そ』


 なんとも不機嫌になっちまう。


 心配したり、不機嫌になったりと、忙しいAI様なこって。


「でも、こうやって無事に買い出しが終わったのもアイリスのおかげだよ。サンキュな」


『ふんっ。感謝しなさいよね』


「遠足もなにかあれば頼むわ」


『え、遠足!? ええっと、あははー』


 そりゃ葵も遠足に参加するんだから、遠足の日にアプリを起動させられたら困るって話だな。流石にそんな嫌味なことはしないけどさ。


『た、楽しんできなさいよ。それから、幼馴染にもお礼の意味を込めて遠足で絡みなさいよね』


「お礼の意味を込めなくても、絡むっての」


 そんなことわざわざ意識しなくても、葵とは絡むだろうよ。

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