第22話
流石は日曜日のショッピングモール。中は沢山の人で溢れていた。
家族連れやカップル。同世代の人達が友人同士で笑いながら歩いたりしていた。
そんな健全なショッピングモールの中なんだし、デカグラサンにマスクでキョロキョロしてると怪しまれるぞ、葵。
「福井くん。服ってどこで買えば良いのかな?」
「あー……」
そりゃ、俺が自信満々で服を買いに行くぞ、と提案したんだからこちらに委ねてくるよね。しかしこれは俺の意思じゃない。服屋なんてどう選ば良いかなんかわかんない。
天枷の質問を右から左に流すようにアイリスへパス。
「どうすんだよ(ボソ)」
『応急処置みたいなものだから別に凝った店じゃなくても良いわよ。今は大手チェーンのアパレルショップで十分』
「り」
『あんた……返事がいつものLOINみたいになってるわよ』
アイリスよ。返事が葵になってるぞ。なんてことは言わず、俺は天枷を大手チェーンのアパレルショップへと連れて行く。
「わぁ……ここってめっちゃ広いねー」
まるで田舎者が初めて都会のビルを見るような感想を述べてらっしゃる。そりゃこの大手チェーンアパレルショップはどこのショッピングモールにでもある上にどの専門店よりも広い。しかしだね、その感想ってのは現役JKとしてどうなんだ。
「天枷は初めて来るのか?」
「あははー。初めてー。服は基本的におばあちゃんが地元で適当に買って来てくれるからねー」
ここで、お母さんじゃなく、おばあちゃんというとこに少し引っかかりを覚える。
「ファッションセンスもおばあちゃんの賜物ってことか」
しかし、気になることをすぐに口に出す幼児でもなし。なにか複雑な家庭事情があるやもしれないため、質問は控えることにする。
「おばあちゃんの賜物なんですよ」
「天枷の地元ってここ?」
代わりと言ってはなんだが、待ち合わせの時に気になった質問を投げた。
「そだよー。福井くんもだよね?」
「よく見破ったな」
「そりゃ、ここら辺のカフェでバイトしていたんだから、なんとなくわかるよー」
あははー。なんて盛り上がりってはいるが、肝心の服の話題には一つも触れられない。
『龍馬。そろそろオペを始めるわ』
「オペて」
葵の言い回しにツッコミをいれてしまったが、そろそろ服の話題に移りたかったのでありがたいタイミングではある。
『
「服と書いてメスと呼ばれても、なにを選べば良いかわからんぞ」
『あれ、それ、これ』
「ほい、ほい、ほい」
葵の指示通りに服を選んで天枷へ渡す。
「これ着てみて」
「う、うん」
天枷は俺の(正しくは葵だけど)選んだ服を素直に受け取り、そのまま試着室へと向かって行った。
♢
試着室で待つこと数分。
シャッとカーテンが開くと、そこには少し恥じらいながら出て来た天枷の姿があった。
「ど、どうかな……」
『白のパーカーにライトグレーのプリーツミニスカート。足元にはローカットスニーカー。イメージポイントとしてはバランス感を考えたファッションね。上半身はパーカーでカジュアルにまとめつつ、スカートでガーリーな雰囲気を加えることにより、男女共に好印象を与えるコーデよ。それに天枷さんの女バス感を残すために、スポーツ系をイメージしつつも、カフェやショッピングでも馴染むようにしたわ』
よくわからんが、とにかく天枷っぽいってことだよな。
「前の服も悪くないけど、この服の方が天枷っぽさが出てて良いよ」
「そ、そうかな……あはは。なんか照れるね……」
顔を赤くして恥じらってる女優顔なアイドル風味の美少女。こりゃ学園の二大美女って言われるだけのことはあるわな。
「じゃあ、せっかく福井くんが選んでくれたし、この服にしようかな」
選んだのは葵だけど、わざわざ口には出すまい。
「気に入った?」
「うん。凄く気に入ったよ。ありがとう、福井くん」
おっふ。いつもツンデレを相手にしてるから、素直に礼を言われるの萌えるんですけども。
♢
結構あっさりと終わった天枷のファッションショー。その次に行われるのは、ようやくのメインである遠足の買い出しだ。
なんか、遠足の買い出しをするだけなのにやたら遠回りをした気がするのだが……まぁいいか。
「ええっと……お肉にお魚にお野菜に……」
ショッピングモールにあるスーパーへとやって来て、俺がショッピングカートを押し、天枷がスマホでバーベキューの材料を確認する。
なんかこの状況、夫婦っぽいんだけども。こんな美女と並んで歩けるとか、すげー背徳感。
「ん?」
ついつい天枷の方を見ていたので、彼女と目が合い首を傾げられてしまう。
「やっぱり似合ってなかったかな」
苦笑いで自分の服を見る天枷は沈んだ声を出した。
「いやいや、凄く似合ってるよ」
「あ、ありがとう……」
「……」
あ、はい。会話が持ちません。
いや、凄い背徳感なんだけどね。だけど、それとこれとは別問題である。
葵となら会話が持たなくてもなんとも思わない。それは無関心ではなくて安心感から来るものだ。喋りたい時に口を開いて、黙りたい時は黙れば良い。そんな関係性。
だけど天枷とはそうはならない。
フットワークが軽くても。コミュ力が高くても。まだまだ彼女のことを全然知らない俺は、無意識の内に気を使ってしまっている。
この沈黙は正直気まずい。
こんな時は──。
「助けて、アイえもん」
『語呂わるっ』
「お、今日は反応があった」
遠足の班決めの時はメンテナンスをぶち込んできやがったからな。
『なんの話?』
「んにゃなんにも」
『そんなことよりも、あんたらなんか気まずそうね』
「なんで嬉しそうなんだよ」
『べっつにー』
「このAI性格悪いな」
『そんなこと言って良いのかしら。せっかく私がその気まずい空気を壊してあげようとしているのに』
「なにか名案でも?」
『ふっ。任しておきな──』
『ちょっと良いかな?』
アイリスとの会話中にワイヤレスイヤホンから中年男性っぽい声が聞こえてくる。
『え?』
『怪しい人物がショッピングモールをうろうろしていると聞いてね。サングラスにマスクを付けて独り言をぶつくさ言っている人がいると連絡があったんだ』
葵の奴、通報されてんじゃん。
そりゃ挙動が怪しかったもんな。
『や、ちょぎ!? ちがっ、龍馬っ! ゴリラっ』
プツンと、最後に俺をゴリラ認定したところで通信が途絶えてしまった。
めちゃくちゃ焦ってたなぁ。ま、俺も警察に声をかけられたら焦るけども。
スマホを確認すると、『メンテナンス中』の文字が悲しく浮かび上がっている。
良かったな、葵。最初から正体がバレバレで。正体に気が付いてなかったらこのアプリ消してたわ。
「福井くん?」
「あ、いや、なにも」
しかし葵の奴。肝心なところを指南しないで連行されやがって。これからどうすれば良いのやら。
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