第20話
今日は私──長谷川葵にとって最高の一日であった。
朝からりょうちゃんと一緒に居られると思うと気分が上がり過ぎて、金曜日は眠れなかった。
睡眠不足だったけど、りょうちゃんといられるなら睡眠不足なんてばっち来いなのよね。
今日は 白いブラウスに淡いブルーのカーディガン。パステルカラーのフレアスカート。ガーリーで控えめなファッション。ツインテールを低めにしてふわっと巻く。このスタイルに決めて待ち合わせ場所までやって来た。
約束の二〇分前に到着。ちょっと早すぎたかと思ったけど、まさかのりょうちゃんの方が先に待ってくれてたみたい。
好きな人が先にいてくれた嬉しさと、好きな人を待たせてしまった罪悪感が重なり合い、私はすぐさまりょうちゃんを呼んだ。
「早いわね、龍馬」
振り返ったりょうちゃんは私のファッションを見て一言。
「すげーオシャレだな」
やっば♪ めっちゃ嬉しい♪♪
その場でリンボーダンスをしそうになるのを抑える。りょうちゃんなら、ノリノリで乗ってくれそうだけど、女子的に唐突なリンボーはアウト。リンボーは計画的に行わないと。
「これくらい普通よ」
だからなんともつまらない返答をしちゃった。
でも、彼の恰好を見た時、どうしても複雑な感情が巻き起こっちゃった。
「それよりあんたの恰好はなんなの?」
人のファッションセンスをどうこう言う資格は私にないのはわかっている。でも、それでも、流石にこれはだめだ。
これ、部屋着だと思ってたけど、外出用だったんかい。
私はりょうちゃんを引っ張って地元にあるアパレルショップへ向かう。
「アパレルショップの開店時間は大体が十時か十一時。基本だね」
「あんたに言われたくないわよっ!」
うわー、どうしよう──。
「あんた、遠足の買い出し──」
言いかけて咄嗟に言葉を変えてくる。
「遠足もその服で行くの?」
あっぶな。もう少しでポロっと言っちゃうところだったわね。気を付けないと。
「当然。この魂の炎をみんなに見てもらう」
「だめだこいつ、早くなんとかしないとぼっち街道まっしぐらだわ」
「ぼっちじゃなくてジェネリックぼっちな」
「うっさいわよ、ばか」
私はりょうちゃんが好きだから、別にこの格好でも最悪は一緒にいられる。だけど、流石に天枷さんには失礼過ぎる。ただの買い出しと言えど、部活終わりのしんどい後にこんな男子が来たら帰りたくなるだろう。でも、それはそれで天枷さんがりょうちゃんをドン引くから葵てきにはオッケーみたいな? あ、だめだ私、また卑怯なこと考えてる。だめだめ。あ、待って、ちょっと待って。これ、りょうちゃんを私好みに改造しちゃえばオールオッケーじゃね?
「よしわかった。こうなったら今から都心に行って、龍馬をメイクアップするわよ」
♢
都心部へ来て、速攻りょうちゃんのファッションショーを開始する。
白無地のシャツにネイビーのジャッケットをチョイス。ベージュのペーパーパンツと白いスニーカーは落ち着いた雰囲気のりょうちゃんにぴったりだったけど、本人は不満みたい。
オーバーサイズのトレーナー。クロップド丈のワイドパンツにランニングスニーカー。流行りのオーバーサイズはりょうちゃんはお気に召さなかったみたい。
ブラックのシンプルなロンTにオーバーダイのデニムのカジュアルコーデ。
正直、りょうちゃんはどうか知らないけど、私のツボにハマってしまった。
いや、炎とチャックを消しただけでどんだけイケメンになるんだよ。目の保養だよ。ジーっと見つめちゃったよね。私好みのイケメンが完成してしまった。
♢
行きたかったカフェには行けなかったけど、りょうちゃんがめちゃくちゃオシャレなお店を選んでくれた。そりゃ見た目は良かったけど、こんな高そうな店、学生の私達で入れるのか不安で仕方なかった。看板の料金も信じられるのかどうか。
りょうちゃん、別に私はファミレスでも全然オッケーなんだよ?
とか、私の不安をよそに、ガンガン店の中に入って行く。
こういう男らしくて頼りになるところが好きなんだよね。
とか油断しているところで、サラッと会計済ますとか、どんだけイケメンなの? 私をどうしたいの? 惚れさせたいの? 安心してください、ベタ惚れです。
「はぁ……りょうちゃんとのデート楽しかったなぁ……」
その後も、都心部をぶらぶらして過ごして、今日はめちゃくちゃ楽しかったなぁ。
なんて今日一日をベッドの上で思い返していると、スマホが震える。
「あ、アプリか」
りょうちゃんがアプリを起動させたみたい。
「やっほー」
『ご機嫌だな、アイリス。なんか良い事でもあったか?』
「ん、まぁね」
あんたとデートできて幸せを噛みしめていたのよって言いたいわー。
「あんたはどうだった? どちゃくそ可愛い幼馴染とのデート、楽しかった?」
『めちゃくちゃ楽しかった』
うわー。泣きそう。めちゃくちゃ嬉しいんだけど。好きな人が私とのデート楽しかったとか言ってくれて、告りたいんですけど。
『でもまぁ、買い出しの練習とは言えなかったかな』
「あ、あははー」
そ、そうね。そもそも、天枷さんとの買い出しの練習で今日のデートがあったんだもんね。ただただ自分が楽しんだだけ。反省しないと。
「練習にならなかったんなら、明日の天枷さんとの買い出しは大丈夫なの?」
『不安ではあるな。幼馴染とは遠慮ない会話ができるけど、天枷とはそうはならないだろうからさ』
「そうね……だったら私も一緒にいてあげるわよ」
『どういう意味?』
「私を起動させたまま買い出しに行って、困ったら助けてあげるって言ってるの」
『え……アイリス、日曜日の予定は大丈夫なのか?』
りょうちゃんったら。アプリに曜日なんて関係ないのに。ふふ、ほんと優しいんだから。
「ばかね。私は恋愛指南アプリなんだから大丈夫に決まってるでしょ」
『や、すぅ……そういう意味じゃないんだけど……』
「どういう意味?」
『や、やや。アイリスが良いなら良いんだ。うんうん』
AIにも気を使うとか、どんだけイケメンなの、私の好きな人。
『じゃ、じゃあ明日はやばくなったら頼るわ』
「この超高性能のアイリスに任せなさい」
『頼りにしてる』
りょうちゃんはそう言ってアプリを切った。
画面が真っ暗になったスマホを見て、私は後悔してしまう。
「……私はまた卑怯なことを口走ってしまった」
りょうちゃんと天枷さんが私の知らないところでどうなるのか気になって、私を起動したままになんて言ってしまった。りょうちゃんも私のことをアプリと思っているから抵抗はないのだろう。
しかし、言ってしまった以上は後悔しても仕方ない。卑怯でもなんでもりょうちゃんが困ったら助けてあげないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます