第18話
福井龍馬のファッションショーの代金は、それはもう高校生の俺からすると目ん玉が飛び出るかと思った。俺の魂の炎が二〇着は買えたね。
でもまぁ、普通の高校生はこれくらい買うんだろう。それに、脱ぼっちを手伝ってくれる葵が選んでくれたんだ。勉強代込みと考えれば安いものだ。
新しいファッションに身を包んで店を出ると、街にはすっかり人混みができており、歩道には人の波ができている。祭りかなんかあんのかよって思うが、これが都心の日常だよな。
「これからどうする?」
人混みに紛れ、人波に従って俺達は隣り合って歩き出した。
「今日はあんたがエスコートしてくれるんでしょ?」
「エスコートねぇ」
確かに、天枷との買い出しの練習だから俺が仕切らないと練習にはならない。
でも、都心部まで来るとは思っていなかった。買い出しの練習だから、地元の駅前のショッピングモールで適当に買い物をするつもりだったんだよな。
「ま、まぁ? いきなりエスコートしろなんて言われても龍馬が困るだろうし、しょうがないから私が提案してあげても良いけど?」
あ、これ、この子ったら行きたいところがあるな。
葵は素直に、「ここに行きたい」って言えない子だ。行きたいところはこんな風にわかりやすくアピールしてくる。
今日は葵に付き合ってもらっているんだ。彼女にも付き合ってやるのが道理だろう。
「それじゃ、お願いしようかな」
「ふ、ふん。ほんと、自分で決められないのね。しょーがない。付いて来なさい」
なんとも顔とセリフが一致していない。葵は嬉しそうな顔をしながら弾むように歩き出す。
浮かれてんなぁと思いながら彼女に付いて行くことに。
♢
「申し訳ございません。ただいま満席でして、二時間ほどお待ちになっていただく形となります」
「ガーン……」
葵の行きたかったのは、大通りにある小洒落たカフェだった。
店の規模はそこまで大きくないのに、ウェイティングをしている人達が多い。カフェだから、既存の客は待っている客のことなど考えずにゆっくりとするだろう。
そのため、店員さんの二時間待ちってのは頷ける時間だと思ってしまう。
「うう……そんなぁ……」
「そんなに行きたかったのか?」
葵はコクリと寂しそうに頷く。
なるほど。葵は最初からここが目的で俺の練習に付き合ってくれたのかな。だったらしょうがない。
「待つか」
「いや、二時間も待てないでしょ」
「おいおい。ぼっちを舐めるなよ。俺は便所で昼休みを過ごせる人間だ。これくらい余裕だぜ」
「汚いし寂しいわね」
「それに、葵と一緒だしな」
「りょうちゃん……」
「あれ? 今、昔みたいに呼んだ?」
「よ、呼んでないわよ、ばか!」
葵は照れ隠しみたいに腕を組んだ。
「しょ、しょうがないから待ってあげるわよ」
なんか俺が待ちたい雰囲気を出されてしまうが、まぁ良いだろう。
というわけで俺達は小洒落たカフェで二時間待つことに──。
ぎるぅぅぅぅ──くゅぃ!
都心に怪獣でも現れたのかと思うほどの怪音。
清々しい程の腹の音は、ランチタイムにはぴったりの音。
そんな音に反射して、店でウェイティングをしている人全員がこちらを見てくる。
様々な視線は俺をすり抜け一人の少女の方へと貫いていく。
俺も、つい視線を葵の方へと向けてしまった。
葵は腕を組んだまま、顔を真っ赤に染めていた。
「お腹すいた?」
「……はい」
恥ずかしさがリミットオーバーしたのか、敬語で返される。
「二時間待つ?」
「待ちません」
「ランチしに行こっか」
「はい。わがまま言いません。私を連れ出してください」
俺達は逃げるように小洒落たカフェから去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます