第17話
電車に揺られること数十分。
地元の駅の何十倍もの利用者を誇る都心部の方へとやって来た。
駅の改札から出るだけでも一苦労。その中から金髪の外国人や、日本語以外の国の言葉が飛んで来たりする。流石は日本でも一位二位を争う観光地なだけある。
「おい、葵」
「どうかした?」
改札を潜り、目的地のアパレルショップへと向かう途中に海外の人達を視線で差した。
「あの人も俺と同じような服を着ているぞ」
その外国人は長身でハリウッド俳優みたいな顔立ちをしていたが、着ている服は黒のシャツに雷の絵が描かれていた。
「海外でも流行ってるってこたぁ、俺のこのファッションはオシャレ番長ってことじゃないのかね」
「外国人が着るのとあんたが着るのとじゃ全然違うわよ」
「なにが?」
「外人はなんか許されるの。なんとなくわかるでしょ」
「外人の金髪やタトゥーはなんかわかるけど、日本人がやるとなんか違うみたいな?」
「それよ、それ」
「しかしだな葵。外人の雷が許されて俺の炎が許されないのは納得いかんぞ。やっぱり俺には魂の炎しかねぇよ」
「うるさいわね。どっからその自信がくんのよ」
面倒くさくなったのか、葵が早足で駆け出した。
「あ、待てよー」
♢
葵のやたらめったら早歩きで辿り着いたのは十時開店のアパレルショップ。
ちょうど今、開店したみたいで客は俺達以外にいなかった。
「あれ! これ! それ!」
葵が躊躇なくメンズの服を適当に持ち、俺へとバケツリレーのように渡してくる。俺はバケツリレーのアンカーなため、ただただ服が腕の中に溜まっていく一方であった。
「はい、着る。全部着る」
「ええ、これ全部か?」
「全部」
葵の目が怖かった。
「はいぃ……」
逆らうと色々と怖いため、俺は言われた通りに試着室へと向かって行った。
シャッと試着室のカーテンを閉め、姿鏡で自分の姿を確認する。
「これ以上の服なんてあるのかね」
「それ以上の服しかないわよ、ばか」
あ、目の前にいらっしゃるのね、葵さん。
あんまり遅くなると怒られるから、さっさと着替えてしまうか。
♢
着替えてからカーテンを開けると、葵がまじまじと見てくる。
「白無地のシャツにネイビーのジャッケットをチョイス。ベージュのペーパーパンツと白いスニーカー。少し柔らかい色を選ぶことで優しい雰囲気を出しているのがコツね」
「ちょっと地味過ぎない?」
「だめだこいつ、さっきの炎で目を焼かれてしまっている」
「ひどい言われようだな、おい」
「はい。次っ!」
♢
再度着替えて葵の前に登場する。
「オーバーサイズのトレーナー。クロップド丈のワイドパンツにランニングスニーカー」
「葵ぃ。これ、ぶかぶかだぞー」
「オーバーサイズが流行ってるのよ! 抜け感を作るのが流行ってるの!」
「間抜けってこと?」
「……次っ!」
♢
着替えたら葵が説明してくれる。と思ったけど、ジッと俺を見つめているだけだった。
「葵?」
「あ、ご、ごめん。ブラックのシンプルなロンTにオーバーダイのデニムのカジュアルコーデ」
葵は説明してくれたあとに、まじまじと見つめてくる。
「炎とポケットが無くなるだけでこんなにも変わるのね。足し算ばかりじゃだめ。引き算も時には必要ってことか」
「それは世の中の事柄にも言えるよな。人はなんでも足したがる。足せば足すほど良いと思っている。そうじゃない。足せば足すほどに重みになる。管理ができなくなる。時には勇気を出して引いてやることが正解の時があるってこったな」
「どの口が言ってんのよ」
葵がこちらにツッコミを入れると、「すみません」と店員さんを呼んで来てくれた。
「この服、そのまま着せて帰りたいです」
「かしこまりました。お客様が着ていた服はどういたしましょう?」
店員さんが尋ねてくれるのを葵が秒で答える。
「燃やしてください」
「あ、ちょっと待て葵。それは俺の魂の炎だぞ」
「時には引き算も必要でしょ」
パチンとウィンクされてなんも言い返せないでいる。
店員さんは俺の着ていた服を見てニコッと笑ってくれる。
「魂ごと燃やしておきますね」
あ、察し。店員さんから見ても俺のファッションはアウトだったみたい。
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