第15話

 私──長谷川葵は、ベランダから自室へ一直線。


 ベッドにダイブしてうつ伏せから顔面を枕に押し付ける。


「デートきたああああああああああ!」


 枕から聞こえる私の重低音。バタバタと両足をバタ足させて、気分はスカイアウェイ。


「はふぅ……」


 息苦しくなり、仰向けになって天井を見た。


「えへ、えへへ。りょうちゃんが誘ってくれた。りょうちゃんとデート」


 やべぇ。まじで嬉しい。こんなに嬉しいこたぁない。


 いつも、「明日遊ぼうぜぇ」とか小学五年生男児丸出しの誘い方するのに、今日は夜中のベランダで壁越しにデートの誘い。


「こんなんエモ過ぎるっしょ」


 天枷さんの買い出しの練習という名目だけど、シチュエーションが良かったからオールオッケー、オールグリーン。いつでもウェディングドレス着れるテンションよ、こっちは。すぐチャペれるから。まじで。


「おっと。こんなことをしている場合じゃないわね」


 私はベッドから華麗に飛び降りてクローゼットを開けた。


 バああああああンっ!


 クローゼットの中には多種多様。様々な服が所狭しと並んである。


 いつか、りょうちゃんとちゃんとしたデート(いや、買い出しの練習なんだけども)のために用意した、対りょうちゃん用衣装。


 ふっ。こんな時のためにファッションは勉強済みなのよ。


 もちろん、服だけじゃなく、メイク、ヘアアレンジ、ネイルまでどんと来い。


 買い出しの練習とか知らん。最強ファッションでりょうちゃんの脳内を葵で埋め尽くしてやるんだから!


「これかなぁ」


 白いブラウスに淡いブルーのカーディガン。パステルカラーのフレアスカート。ガーリーで控えめなファッション。ツインテールを低めにしてふわっと巻く。


「それともこれかなぁ」


 黒のハイネックセーターはタイトすぎずゆるすぎず。モスグリーンのミディ丈プリーツスカート。髪型は変えずこのままストレートで。ちょっと大人っぽいかな。


「これも良いかもー」


 ブラウスとパープルのニットベスト。チェック柄のフレアスカートでレトロお嬢様風に。髪の毛は外巻きにして更にレトロお嬢様感を上げちゃったり。


「これでどうだ!」


 白いトレーナーの中にパステルピンクインナーをチラ見せ。ネイビーのプリーツミニスカートのスポーティガーリーコーデ。男子の大好物の高めのポニーテールでりょうちゃんをイチコロよ♡


「あ、そうだ」


 私は思い出したようにスマホを開いた。


「ええっと、確か……あった。このSNS映えするカフェ。ここのカフェのパンケーキをりょうちゃんと食べたかったんだよね。あ、そだそだ。ついでにあそこも……いや、あそこも良いかも……」


 スマホを操作、操作、操作──。


「ふふ、ふふふ、ふふふふふふ……」



 ちゅんちゅん。


「あり?」


 ファッションショーおよびデートスポットの観覧を繰り返していると、窓越しに太陽の光が入って来てから気が付く。


『葵ー。朝ごはんできたわよー』


 部屋の外から聞こえてくるお母さんの声。


 そこでふと気が付く。


「今日まだ水曜日なのにオールしちゃった……」


 どんだけ楽しみにしてんだ、私。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る