第12話

 四限まで耐えるとようやくのランチタイムっ! もちろんぼっちで!


 ふ、ふふ。別に良いもん。便所飯じゃなくて屋上飯だから。俺だけの楽園だから良いんだもん。


 でも、本当は仲間達と秘密の屋上でランチタイムが夢だったり。


 へっ、どうせ叶わぬ高い夢ですよ。


 自虐をしつつ、カバンから母さんの手作り弁当を取り出そうとしたところで、廊下側の一番前の席で喋っている葵と目が合う。それと同時に、風見とも目が合った。


 そういえば、葵は風見と仲良さげだよな。一年の頃の知り合いとかかな。とか、考えていると葵が一歩こちらに踏み出すのが見えた。


「福井くん」


「お?」


 急に目の前に現れたのは天使の輪を携えた学園の二大美女こと天枷愛理。その愛らしい顔立ちが俺の瞳いっぱいに広がり、眼精疲労を回復させた。気がする。


「どったの?」


「買い出しの件で相談に来たんだよ」


「そうですね」


「……福井くん、今のはめちゃくちゃつまらないよ」


「さーせん」


 天枷にダメ出しをもらってちょっぴり嬉しいってのは、俺がMだからかな……。くっ、美少女にダメ出しされたら誰でも嬉しいだろっ! とか誰に言い訳をしているのやら。


「相談するにしても、休み時間は短いし、昼休みは部活の人と食べる約束あるし、放課後は部活だから中々時間取れないんだよね」


「LOINで良いんじゃない?」


 このご時世、それが主流だと思うんだけど、天枷はぷくっと怒った表情をしている。


「LOIN止めてるの福井くんだよ」


「え? 俺、いつの間にクローザーになったの?」


「いや、いきなり野球の抑えピッチャーのこと言われても普通の女の子は困惑するよ?」


「だったら天枷は普通じゃないと?」


「むぅ、揚げ足取らないでよー」


「ごめんごめん」


 天枷、普通に可愛いな。こりゃ学園の二大美女って言われるわけだわ。


「福井くん、LOIN苦手な人なのかなぁって思ったからさ。私もあんまり得意じゃないから、できれば直接話し合いたいって思ってる」


「でも、中々時間が取れないと」


「そうなんだよ。どうしよっか」


「天枷の部活終わりで良いなら待つけど」


「完全下校時間まで福井くんを待たせるのは申し訳ないよ」


「別にバイトのない日なら全然良いけどな」


「あれ? 福井くんってバイトしてるの?」


「カフェでな」


「カフェか……」


 天枷は少し考えてから口を開いた。


「バイト中って休憩時間とかあるの?」


「そりゃ、小休憩とかは取っても良いけど……」


 言葉の途中で、天枷がなにを言いたいかわかってしまった。


「もしかして、俺のバイト時間にバイト先に来るってこと?」


「わー、すごーい。福井くん、名探偵―」


 パチパチと拍手をくれる天枷に、「どもどもー」と照れてしまう。


「私の部活終わりに福井くんのバイト先で話ができたら完璧じゃない?」


「そうだな。それなら時間が取れやすい。店長に話せばそれくらいの時間は許してくれるだろうから、そうしようか」


「おっけー。福井くんはいつバイトなの?」


「今日」


「じゃ、今日行くね」


「あらま、フットワーク軽いね」


「バスケ部だから」


「それは、まぁ……」


 関係ないと一概には言えない。運動部ってノリの良い人が多いからなぁ。


「それじゃ、福井くんのバイト先LOINで送っといてよ」


「あいよー」


「それじゃ、お昼は部活の人と約束してるから行くね。バイバイ」


「バイバイ」


 天枷が無邪気に手を振ってくれるので、こちらも振り返したところで教室内の空気に気がつく。


 天枷がクラスのぼっちと喋ってやがる。みたいな空気が流れているような気がする。


 そこで、俺の席付近にいる男子三人衆の声が聞こえてくる。


「学園の二大美女が福井殿とガッツリ喋っていたでござる……」


「これは我々も一匹狼を演じれば喋ってもられるということなりねぇ」


「うおおおおおん! ぶっ殺ろおおおおおおお!」


 あ、気のせいみたい。


 俺みたいなぼっちが二大美女と喋ってても妬みはないってことですか。風見みたいな奴と喋っていたら妬みの言葉が放たれていたということなんだろうな。そこだけはぼっちで良かったと思えるね。


 とか、風見と比較しているところで、その比較対象がオラオラ系でやってくる。


「あんまり調子乗んなよ。殺すぞ」


 そう言い残してそのまま教室を出て行った。


 俺より身長が一〇センチも低いから迫力はないんだよな。イケメンなのに惜しい。あれで身長が高かったら最強だったのに。そこは女神の失敗ってか。かっかっかっ。

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