第9話

 しんどいしんどい。屋上で新島先生にシリアスアタックぶちかまして班決めをイージーモードに持って行きたかったのに、あんの三十路めぇ、去年と同じくハードモードにしやがって。


「てへぺろ☆」


 じゃねーよ! 女軍曹が舌出してんじゃねぇわ! 三十路のてへぺろ可愛いと思っちまった時点で俺の負けだよ。


「拙者達はいつメンでいくでござるなぁ」


「そうなりねぇ。やっぱりいつメンは落ち着くなりねぇ」


「ぶっころぉ♪」


 俺の席付近に集まっているいつもの三人衆が速攻で決めやがった。これみよがしに決めやがって。ちくしょう。


 くそぉ。どうする。クラスメイト達は続々と決まっていってるぞ。


 こうなりゃ秘奥義発動だ。


「助けて。アイえもん」


 俺はスマホを取り出して恋ナビAIをタップ。


 残酷な、『メンテナンス中』の文字。


「ですよねー」


 肝心な時に使えねーな、このアプリ。


 どうしたもんか……。


 このクラスは男子一五人。女子二一人だ。


 ん? 待て待て。冷静になれ、俺。


 男子一五人ってことは必然的に男子の三人班が五つ出来上がるはず。余りなどない。それはつまり、というと?


 バッと先生の顔を見ると、がっつり目が合って、グッと親指を突き立ててくれる。


 軍曹おおおおおお! あんた、あんたってやつぁあああ!


 そうか、俺が余らないように考慮しての班決めだったのか。


 ちくしょー、粋なことしてくれやがる。アイリスなんかよりよっぽど役に立つぜ、べらぼーめ。なんだよ、だったら急がずとも良いだろう。


 確かこのクラスの男子には、二人組の優しそうな山口くんと高橋くんがいたはずだ。二人組だからもう一人誰を入れるかで迷っているだろう。


 おっと、窓側の席でのほほんと話している二人の姿が見えるぞ。


 おーい、俺もそののほほんに混ぜておくれーよーい。


 ガシッ。


 ぬ? なんだか物凄い握力で俺の肩が掴まれているんだが。


「ちょっと良いか」


 振り返ると俺より五センチほど身長の低いががっちりとした体の坊主頭が立っていた。


 確か、野球部の岩本豪気いわもとごうきだったか。一年の頃はやかましい陽キャグループに所属していたが、こいつが騒いでいるのは見たことなかった気がする。


「福井は誰かと班は決めたのか?」


「決まってないけど。今から決めに行くところ。つうか握力やばすぎだろ」


「おっと、すまない」


 普通に謝って肩から手をどかしてくれる。野球部の岩本、良い人感が出てるな。


 岩本と会話をしているところで、「おい」と爽やかな声が聞こえてくる。


「豪気。そんな陰キャに遠慮なんてすんなよ」


 爽やかな顔をしたやつが爽やかな声で口の悪いこと言いながら現れる。


 風見蓮かざみれんだ。


 陽キャグループのリーダー格。学園の王子様と称されるほどのイケメン。主人公という言葉があるが、こいつにこそ相応しい言葉だと思えるほどにイケメン。声もイケメン。女神に愛されてんな、こいつ。


 いや、待て。身長が低い。俺より一〇センチは低い。


 ぷくく。そこは女神に愛されなかったんだね。乙。


「お前どうせ余ってんだろ。俺と豪気の班に入れ」


 身長は低いけど目線は高めだなー。やたら上から目線でくるやん。その通りなんだけどさ。


「このクラス、女子のレベルは高いけど男子は陰キャの集まりでハズレ過ぎるだろ。俺と豪気以外陰キャで、生理的に無理だわ」


 あー、このイケメンは見下し系ね。身長低いけど見下し系ね。はいはいはい、理解した。友達にはなれないタイプだわ。ま、俺はぼっちなんですけどねっ!


 しかし俺は陰キャで良いのか? ぼっちじゃないのか? ぼっちとかいう無属性ではなく、陰キャという属性をくれるのかい?


「陰キャを班に入れるのはまじで無理だけど、三人班なんだからしょーがねぇ、入れてやるよ。ただ勘違いはすんな。ただの人数合わせだからな」


 こいつ口悪いなぁ。まぁこの手のタイプなんて小学生の時も中学にもいたから別段驚きはしないがね。


 チラッと山口くんと高橋くんの方を見ると、田中くんが加わっており、のほほん三人パーティを結成していた。


 くそっ。乗り遅れた。どうやら俺は見下しイケメンとのパーティに入るしかないみたいだ。


「実際余ってるしな。よろしく」


 波乱の予感がする班決めがあっさり決まってくれたんだ。贅沢は言うまい。


 と思っていたんだけど。


「よし、お前ら。次は男女の班とバーベキューについて決めていくぞ」


 次の波乱が始まっちゃいました。


 遠足の班決めはあっさりと済んだと思ったら、次は女子との班決めかよ。


 男子は男子。女子は女子で最初に決めて、最後にがっちゃんさせるなんて平成のやり方かっ。


 いや、でも──。


「風見くーん。ウチらと組もう」


「は? 蓮はウチらと組むんだし」


「何言ってんのよ。レンレンは私達のもんだし」


「ははは。みんな、落ち着いて。俺はひとりなんだから、慌てないでくれよ」


 このイケメン、男女で態度を変えるタイプなんだね。きっも。そんでリアルにそんなセリフを吐く奴がいるんだな。吐き気がするわ。


「「「きゃああああん♡♡♡」」」


 どうやらイケメンに限るといったものらしい。あのセリフで黄色い声が飛ぶとかどうなっとんだか。普通は野次だよ、野次。あんなきもいセリフには茶色い野次が飛ぶんだよ。


 なにはともあれ男子と女子のがっちゃん班はオートで進んでくれそうだな。ありがとう性格の悪いイケメン。ここからはなにも考えずで良さそうだ。

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