第7話
この二年六組には学園の二大美女が存在する。
長谷川葵と天枷愛理。
誰が呼んだか学園の二大美女。その名の通り二人から放たれる美のオーラは学園でも輝いている。
「長谷川さんはアイドルっぽい見た目で、天枷さんは女優っぽい見た目でござるよな」
「でも性格は長谷川さんが女優っぽくて、天枷さんがアイドルって感じなりねぇ」
「どっちかと付き合いてぇ」
以上。廊下側から三列目の一番後ろの席付近にて、二大美女のことを喋っている男子の意見でした。
ふぅん。葵ってそんなイメージを持たれているんだな。ただの王道ツンデレなのに。とか本人に言ったらめたんこ怒られるから口がさけても言っちゃだめだ。
高校二年になってまだ数日。名前順の席で割り振られた廊下側から三列目の一番後ろの席に座り、廊下側の一番前の方でクラスメイトとお喋りをしている葵の方へ視線をやる。
うーん。まぁ葵は確かにアイドル顔だよな。友達も多いし。あ、クラスのイケメンがさりげなく挨拶をかわしやがった。
「くそぉ。
「ちょっとイケメンだからって長谷川さんに馴れ馴れしくしやがって」
「許さん。ぶっ殺してやる」
ちょっと待って男子達。その程度でぶっ殺すなら、幼馴染の俺はどうなるの? 粉砕される?
とか、勝手に焦っているところで、バスケ部の朝練を終えた天枷が急ぎ足で教室に入って来る。
どうして朝練終わりってわかるかというと、女バスは毎日朝練をしているからだ。去年、同じクラスだった女バスの子が、朝練を言い訳に遅刻したら、めたんこ怒られていたな。だから天枷も急ぎ足なんだろうね。
「おはよ。長谷川さん」
「おはよう。天枷さん」
廊下側の一番前にいるから、通りすがりに天枷が葵にナチュラルに挨拶をかわす。
「学園の二大美女が挨拶を交わしたぞ」
「目が……目がああああああ! 保養されりゅうううううう!」
学園の二大美女の絡みに男子歓喜。
だがまぁ、そんな男子の反応なんて無視し、天枷は自分の席である窓際の一番前の席へと向かって行った。
そりゃまぁ、そんなもんにいちいち反応なんかしてられんわな。
その時、天枷と目が合った。
ニコッ。
彼女が微笑んで手を振ってくれる。
なるほど、確かに天枷の見た目は女優だけど中身はアイドルだわ。と、俺の席付近の男子達の意見に共感しながら小さくひらひらと手を振り返した。
「やべー。天枷さんが俺を見て手を振ってくれたでござる」
「ばか。ちげーなり。俺なりよ」
「俺だよ。ぶっ殺すぞ」
最後の男子、すぐぶっ殺そうとするなよ、こえーな。
天枷が席に着いたと同時に朝の予鈴が校内に鳴り響く。
まるで天枷の席がチャイムと連動するように鳴ったぞ。
なんて感心していると、俺の席付近にいた男子達も解散し、葵が俺の席の前に戻って来る。
長谷川と福井だから名前順の席だと前後になる機会が多い。小学生の頃から、同じクラスになる度にこの構図は変わらない。
「あんた。天枷さんに手を振られていたけど、もしかして連絡先を交換した相手ってのは天枷さんのこと?」
わざわざ体を半身にして、しらこく知っている情報を聞いてきやがる。しかしまぁ、話の内容としては自然な話題提供だと思えるな。
「さぁ。どうだろうね」
あんまり葵と話していると、周りの男子達の視線が痛いから、目を合わせないように簡単にはぐらかす。
「ふぅん。ま、興味ないから良いけど」
なんて、少し怒ったような口調で前を向いた。
興味ないなら最初から聞いてくるなよと思ったが、こいつは答えを知っているから別に深く追求しなくても良いと思ったんだろうな、と自己解決する。
「皆、席に着け」
颯爽と現れたのは、二年六組担任兼女子バスケットボール部の顧問である新島里美先生。
女軍曹みたいな口調だが、その実、結構人気の先生である。口調が強いだけで、中身はフレンドリーな先生だ。女子達は恋の相談を持ち掛けたりしている。
「よし、全員出席しているな」
教卓に立つと、教室を見渡して一言。他のクラスではひとりひとり出欠をとるらしいが、新島先生は無駄が嫌いみたい。パッと見渡しただけで出欠確認をとるようにしている。頭が良くないとできない芸当だよな。
「今日はお前達に大事な話がある」
あら、珍しい。朝のHRも無駄だと思っているタイプだから、すぐに職員室に戻る先生がHRを始めちゃったよ。
「再来週の遠足の内容が決まった。バーベキューだ」
おおおおおお!
ええええええ……。
盛り上がる陽キャに盛り下がる陰キャ。そして無のジェネリックぼっち。
様々な反応をする生徒達を無視して新島先生が続ける。
「今日の午後のLHRは班決めを行う。以上」
そう言い残して先生は去って行った。
先生が去った後も盛り上がったり、盛り下がったりしている教室内。
バーベキュー自体はいいが、こりゃやばいことになったな。
これはジェネリックぼっちでも、真性のぼっちでもあまり関係ない。
班決め。ぼっちには一番やばいイベントが始まりやがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます