第6話

 いつも通りの朝。気だるい朝。両親は共働きで、とっくに働きに出て行ってしまった家に、「いってきます」をしてから家を出る。


 ひとりっ子の俺は、両親との仲は良好だ。今時の親子関係ってやつかな。一緒に買い物にも行くし、外食にも行く。ひとりっ子というのがあるかもしれないが、俺がジェネリックぼっちで、他に絡む人もいないために仲が良いのかもしれないな。


 だからというわけではないだろうが、俺の住んでいるマンションのお隣さんである、長谷川家とも仲が良い。家族ぐるみの仲だ。家族構成はウチと一緒の三人家族。親同士の年齢が近く、息子と娘が同級生なもんで、家族で居酒屋になんてしょっちゅう行っている。


 それくらい仲が良いからさ。


「おはよ。龍馬」


 別に俺の家の前にお隣さんの葵が待ってくれていてもおかしくはないんだけど、ついつい首を傾げてしまう。


「おはよ、葵。テニス部は?」


 そうである。葵はテニス部に所属している。我が校の二大美女は、テニス部とバスケ部という、いかにもリア充を絵に描いたような部活動に属しているのだ。


 テニス部の葵は、一年生の頃より毎日朝練に参加していたはずだ。だから、俺みたいな帰宅部が登校するような時間はテニスのラケットを振っている時間のはずだが。


「最近、色々変わっちゃってね。朝練がなくなったの」


「そういえば顧問が変わったんだっけか」


「そうそう。かなり緩くなっちゃってさ。ま、別に熱血でやってたわけじゃないから、こういうぬるいのも別に良いんだけどね。拍子抜けというか……」


 そう言いながら長い髪の毛をいじる葵。


 幼馴染だからかな。俺には彼女の言葉が本心ではないことがなんとなくわかってしまう。


「だからまぁ朝練もないし、ジェネリックぼっちだっけ? の龍馬と一緒に学校に行ってあげるんだから感謝しなさい」


 あんまり自分と関係のない部活のことに口出しするのも良くないよな。


「助かるわー。葵が絡んで来なかったら真性のぼっちだからな。ジェネリックぼっちだけは死守したいところだ」


「なんの違いがあんのだか」


 呆れた様子で言われながら、自然と肩を並べてマンションのエレベーターの方へと向かう。


 俺達が住んでいるマンションは一〇階建てのマンションの八階。階段を利用するのはちょっとしんどいため、昇降はエレベーターに任せてある。


「そういえば、さっそく使ったのね。私が教えたアプリ」


 エレベーターが来て、中に入ると同時にアプリの話題を振られる。昨日送ったLOINからの話題だろう。だったら既読スルーするなよ、悲しくなる、と言ってやりたいところだが、こうやって朝に話題提供してくれているんだから、これもLOINの延長線上とも言えると思い、文句は心の中だけにしまっておくとするか。


「使ってますよー」


 言いながら一のボタンを押して、閉まるボタンを連打する。


「ふふん。やっぱりあんたも恋愛に興味があるのね。教えて正解だったわ」


 到底、俺があのアプリの秘密に気が付いていないと思っている様子だな。


「どう? 誰かと恋愛はできそうなの?」


 しらこく聞いて来やがりますよ、この幼馴染様は。


「まぁ、恋愛うんぬんはともかく、葵以外の連絡先を手に入れることができたから、あのアプリは優秀だよ」


 チーンと一階に到着して、エレベーターを出ながら使い勝手の感想を一つ。


「そ、そう。良かったわね」


 オートロックのドアが自動で開いたところで、「それで?」と葵が尋ねてくる。


「その連絡先を交換した女の子とはどんなLOINをしたの?」


 あらあら葵ちゃんやい。まぁたボロが出ちまってやがる。成績優秀で頭が良いのになんでかね。


「俺がいつ女の子って言ったよ」


 朝の気持ちの良い気候の下で、ちょっぴり現役JKをからかったりしてみせたり。


「え!? あ、いや、それは……」


 焦っちゃってからに。


 ふふふ。ジェネリックぼっちだって誰かをいじりたくなる時があるのだよ。今日は犠牲になってくれたまえ、葵くん。


「いやいや、恋愛指南アプリなんだから女の子と連絡先を交換したに決まってるでしょ」


「このジェンダーレスの時代に、恋愛は必ず男女と決めつけるのはおかしいのではないかね?」


「あんたそっち?」


「ふっ。ぼっちだからどっちかもわかんない」


「いや、そこはぼっち関係ないでしょ」


「……確かに」


 ぼっちだからってどっちかわかんないってことはないか。ちなみに俺は女子が好き。でも、男の友達が欲しいタイプ。


「そんなくだらないこと言ってないで、連絡先を交換した子とのやり取りはどうなったのかを教えなさいよ」


 そんなに気になるのかね。別に天枷とはそのあとは二回くらいのしょうもないやり取りで終わったんだがな。


「葵はアプリを教えてくれたけど、流石にLOINの中身を晒すのは個人情報てきにアウトだろ」


 ここにきてまともな返答をしてやると、「まぁ、それは確かにね……」なんて返してくる。


 あー、ここで葵いじりが終わるのも面白くない。もう少しいじってやりたいところで一つ思い付く。


 葵が目の前にいる状況で恋ナビAIを開いたらきっと慌てふためくだろう。


「だけど、アイリスにはどうなったか言う義理はあるよな」


 いじりたい欲求が高まった俺は止まらない。


 スマホを取り出して、恋ナビAIをタップ。


 さて、どうなるんだろうか。慌てふためく葵の姿が──。


 あれ? 葵のやつ、全然焦ってないぞ。


「んん? メンテナンス?」


 こんにゃろー! うまく逃げやがってー!


「ありゃま。そういえばこのアプリってメンテが多いみたいね」


 ほんとしらこく言いやがりますね、この幼馴染様は。


「でも龍馬の言う通りよね。幼馴染だからってLOINの中身を聞いちゃダメ。だからメンテが終わったら、そのアイリスって子に教えてあげなさいよ。メンテが終わったらね」


 流石は葵。逃げ道はちゃんと作ってやがるのか。うますぎて天晴れとしか言えん気分だよ、ちくしょう。

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2024年12月3日 12:34

AIが恋を教えてくれるらしい〜操作しているのが幼馴染だと俺は知っている〜 すずと @suzuto777

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