過去編:ザルヴァス超構造体の繁栄



ザルヴァス超構造体は、星そのものを超える巨大都市であり、ゴブリン族の英知が結晶化した場所だった。その内部は複雑かつ精密なナノマシンのネットワークで維持され、天候、重力、環境すべてが完全に制御されていた。


中心部に位置する「エネルギー核」は、無限に近いエネルギーを供給し、都市全体を動かしていた。都市の外観は金属とクリスタルの融合体であり、空を覆う防護シールドには常に七色の光が踊っていた。



「おはよう、アリス。」

光るホログラムが目覚まし時計の代わりに天井に現れる。そこにはフレンドリーな顔を持つAIが表示され、今日の予定を伝える。住居区に住む若いゴブリン技術者、リクはベッドから跳ね起きた。


部屋には高性能の自動調理機が設置されており、リクは朝食を選ぶだけで香ばしいパンやスープが瞬時に提供された。食べ終わると、ナノマシンが自動的に体内の栄養バランスを調整し、疲労感を完全に取り除く。彼は外に出る準備をしながら、自分の義務を思い出していた。



リクは「進化研究所」で働いている技術者だ。進化研究所では、ゴブリン族全体の肉体的および知的能力を向上させるためのプロジェクトが進められていた。今日の彼の仕事は「新たな適応形態」のテストだった。


透明なカプセルの中では、ゴブリンの遺伝情報がナノマシンによって構築され、特殊な環境に適応するよう実験が行われていた。


「この新しい形態は、氷点下でも問題なく活動できる。次は極度の重力下での実験だ。」

リクは自信満々に説明を続ける。研究員たちは笑顔で成果を共有し合い、知識の交換を行った。ここには恐れも不満もない。ただ、ゴブリン族の未来を信じ、より高みを目指す意志だけがあった。



研究所を終えたリクは、友人たちと都市の娯楽エリアへ向かった。ザルヴァスの都市には「仮想現実シミュレーター」という人気の娯楽があり、参加者はどんな環境でも体験できる。彼らはその夜、かつての「原始的な自然」をテーマにした仮想世界を楽しむことにした。


「これが、我々が超えた時代か。」

草原を駆ける感覚を体験しながら、リクは笑った。都市にいる限り、危険や飢えの心配は一切なく、彼らは常に完全な安全と自由を享受していた。



その一方で、都市の最上層では、選ばれた科学者たちが新たな挑戦に取り組んでいた。神々と呼ばれる高次元存在とのコンタクトだ。


中央制御タワーでは、神々のデータ構造を解析し、彼らの「力」の本質を理解するための実験が進められていた。リクもその一端に関わることが夢だったが、彼にはまだ遠い目標だった。


「いつか、俺たちが宇宙の真理を解き明かす日が来る。」

リクのその言葉が、彼らの全盛期を象徴するように響き渡った。



そんな平和な日々の中で、誰もがこの繁栄が永遠に続くと信じていた。しかし、彼らの技術が神々をも凌駕したその瞬間から、運命の歯車が狂い始める。リクや仲間たちはまだ知らない。彼らの星ザルヴァスが、やがてブラックホールの中心に封印される運命にあることを――。

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