過酷な環境
デルクスは命の匂いがしない星だった。
地平線まで続く鉱山跡の大地は、絶えず降り注ぐ毒性の粉塵に覆われていた。赤黒く濁った空に太陽はほとんど見えず、昼と夜の区別も曖昧だ。この星の住民たちは、生きるために何かを犠牲にすることを余儀なくされていた。それが命であろうと、誇りであろうと。
グリードが暮らしているのは、鉱山労働者専用のバラック群だ。そこは住むという表現すら躊躇われるほど荒廃していた。廃材で作られた粗末な小屋は、わずかな風で崩れることがあり、雨漏りや地面から湧き出る酸性水に耐える日々。電力供給は不安定で、夜になると星全体が暗闇に沈むことも珍しくなかった。
「動け、クズども!」
朝とともに鳴り響くのは、帝国の監督官の怒号だ。監督官たちは鉄の鞭を手に、鉱山の奴隷たちを容赦なく叩きつけて労働を強要する。逃げようとする者、反抗する者、あるいはただ動きが遅い者――誰であれ容赦はない。
ゴブリンたちは最下層の存在として扱われていた。他の種族ですら軽蔑の目を向け、誰一人として助けようとはしない。彼らは「使い捨ての労働力」として見なされ、鉱山の奥深く、崩落の危険が最も高い危険区域に送り込まれることが常だった。
グリードも例外ではなかった。だが、彼には一つだけ、他のゴブリンと異なる点があった。
夜になれば、彼は他のゴブリンたちが疲労に倒れ込む中、静かに廃材や機械部品の山へと向かう。彼が拾い集めたものはゴミとして捨てられたもので、誰も見向きもしない。だが、彼にとってそれらは可能性そのものだった。
小さな手で慎重に分解し、組み立て直す。腐食したワイヤーを交換し、朽ちた金属を磨き上げる。その手際は見事なものであり、監督官が見たら無駄にしている時間を理由に罰するだろう。しかし、グリードは構わなかった。
「機械は嘘をつかない。俺の手に応えてくれる。」
そう呟きながら、彼は毎晩黙々と作業を続けた。そしてある夜、彼の作業場に訪れる「変化」が起きた。
グリードはいつものように、鉱山の奥深くまで廃棄部品を探しに出かけた。そこは誰も近寄らない危険区域だ。古い支柱が崩れかけ、坑道全体が不安定になっている。しかし、その日の探索で、彼は奇妙な光を放つ金属片を見つけた。
金属片は彼が見たこともないデザインで、かつてゴブリン族が築いた文明の名残に似た意匠が刻まれていた。その中心にある球体がわずかに発光しており、触れるたびに微弱な振動を伝えてくる。
「……これが、俺たちの……?」
言葉を失いながら、それを持ち帰ったグリード。彼はその夜、一睡もせずにそれを解析しようと試みた。やがて、球体に刻まれた一筋の線を偶然押すと、金属片全体が激しく輝きだした。
光とともに現れたのは、ゴブリンたちの古代言語で書かれたメッセージだった。長い間忘れられていた彼らの祖先が、このコアに込めた最後の言葉。それを読み取ったグリードの中で、何かが覚醒した。
「……再び、奪われるだけの存在にはならない。」
その日を境に、彼の中に一つの確信が生まれた。彼がこの過酷な環境を変え、ゴブリン族を再び銀河の舞台へと導くのだ、と。
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