「なんか今の質問、すげぇ嬉しい」

「へ?」

「俺のこと、気になったってことだろ?」

「……」

「今はそれだけでも十分だから」


 ポンポンと優しく頭が撫でられる。

 こんな風に独占欲を丸出しにされると、本当におかしな思考になりそうだよ。


「そういう顔されると、少しは脈あるって思っていいの?」

「ふぇっ?」

「『嬉しい』って顔に見えんだけど」

「っ……」


 そんな顔に出てた?!


『好き』って言われたり『誰にも渡したくない』だなんて言われたら、恋愛に興味がない私でも嬉しくなるよ。


**


 体育祭当日、雲一つない秋晴れの朝。

 秋の陽に照らされた影が長く揺らめく。


 マイク関連の配線準備があるため、私はいつもより1時間早くに自宅を出た。


「おはよう、小森」

「おはよ」


 当然のように『明日は何時?』と昨日聞かれ、『7時に家を出る予定』と伝えてあったから、いつもより1時間も早いのにもかかわらず、上條くんは人形町駅の改札口前にいた。


「今日の髪、可愛いね」

「っ……、お母さんが編み込んでくれたの」

「へぇ~」


 これは、天然?

 それとも、たらしなの?

 朝から、さらっと嬉しくなるようなことを口にするんだから。


 ホームで電車が来るのを待っていると、彼からの視線を感じた。


「何?」

「あのさ~、クラスメイトとしてじゃなくて、小森個人として……今日一日俺の応援して」

「……」

「ダメ?」

「へ?……あ、ううん、応援するよ、もちろん」


 ほんの少し赤らめた顔で呟かれた。

 いつだって余裕そうな顔をしてる彼が、威嚇する以外にこんな表情を見せるだなんて。

 私の返答が嬉しかったのか、照れた顔を隠すために視線が逸らされた。


「ずっと本部席?」

「ううん、担当以外はクラスの所にいる予定だけど」

「そっか」


 ちょっとでも近くにいたいのかな?だなんて、勝手に思考が暴走してしまう。

 最近私の脳みそ、夏バテで蕩けてるのかも……。

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