ホームに入って来た電車に乗り込むまどかと廉。

 朝の通勤通学のラッシュ時間だから、すし詰め状態は当たり前。

 女性専用車両ではないが、女子校の生徒が固まっている車両にいつも乗り込むため、痴漢を心配しなくていいのだ。


 電車の揺れで手摺り棒に頭をぶつけないようにまどかの頭に手を添える廉。

 近くにいる女子校の生徒たちの視線が廉とまどかに向けられている。

 まどかは廉の行動に照れてしまい、俯くように顔を伏せた、その時。廉がそっとまどかの耳元に呟いた。


「肩はもう痛くないの?」


 彼の吐息がかかって、耳元が擽ったい。

 恥ずかしさのあまり顔を上げられず、彼のネクタイに視線を固定して、こくりと頷く。


「そっか」


 安堵した声音だという事が嫌でも分かる。

 だって、甘いよ、言葉も雰囲気も。

 普段はクールすぎるから、そのギャップがありすぎて。


 隣りの駅に到着すると、和香が私を見つけ乗り込んで来た。

 けれど、上條くんにガードされてる私を見て、必死に笑いを堪えている。


「上條くんって、独占欲強めなんだね」

「っっ」


 和香っ!

 満員電車でそういうことは口にしないで!


「みたいだな。今までこんな風にしたいと思える子いなかったから、自分でも結構驚いてる」

「へぇ~。けど、まどかの彼氏候補としての返答なら50点」

「それ、良いのか悪いのか微妙だな」

「まぁ、せいぜい頑張って」


 何なの~~っ?!

 2人で平然と会話しないで~ッ!!

 しかも、和香、さりげなく上から目線なんだけど?


**


 体育祭前日の放課後。

 事前の最終チェックと打ち合わせに追われるまどかは、帰りが遅くなると思い、久々に上條くんにメールを送る。


『今日はだいぶ遅くなりそうなので、待ってないで先に帰って下さい』

 連日のように帰りの遅いまどかを心配し、玄関で待っている彼を気遣ったメール。

 すると『分かった』と、すぐさま返信が来た。



 元々淡泊な性格だからか、メールの文字もいつも短い。

 それが嫌だとか寂しいなんて感情にはならないんだけど、彼が何を考えているのか分からない時がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る