「その事務所の社長が、私の母親の兄で。要するに伯父なんだけどね、その伯父からこういうのを沢山貰うの」

「えぇ~っ、凄いじゃん!なぁ、廉」

「ん」


 基本、冷淡な性格の廉。

 芸能界に興味はなく、最大手の芸能プロダクションと言われてもピンと来ない。


「この間、助けて貰った御礼に、藤宮くんと津田くんにもあげたくて。勿論、上條くんにも。今まで沢山助けて貰ったから、その御礼に」

「えっ、いいの~?」

「券ならいつでもいっぱいあるし」

「なんか、それも凄いね」


 まどかが朝陽にチケットを分けて手渡す。


「これ、津田くんの分なんだけど、彼に渡せる?」

「あーうん、俺、今日あいつんち寄って置いて来るから大丈夫だよ」

「ごめんね?わざわざ届けて貰って」

「家近くだし、気にしなくて平気。それより、こんな貰っちゃっていいの?」

「うん、足りなければ言ってくれればまたあげるよ」

「えーいいよ~、これで十分」

「まどか?」

「あっ、……うん」


 まどかに視線を送る和香。

 まどかは和香に小さく頷くと、唇の端をキュッと結んで視線を手元に落とした。


「藤宮くん、うちら先に行こうか」

「え?……あぁ、そだね。じゃあ、廉、お先に」


 ポンと廉の肩を一叩きした朝陽は、まどか達に見えないようにウインクした。


 取り残された2人。

 急にその場が静けさに包まれる。


「あの……上條くんっ」

「……ん」

「上條くんの都合のいい日でいいので、一緒に映画観に行きませんか?」

「……え?」

「あ、ごめんなさいっ!無理にではなくて「行く」


 突然のまどかの誘いに動揺して、返答がワンテンポ遅れた廉。

 誘い自体が取り消されそうになって、慌てて被せ気味に答えた。


「行く、ってか、小森と行きたい」

「っ……、うん」


 廉の返答で緊張が解れたのか、ホッと安堵したまどか。

 そんな可愛らしい素振りをみせるまどかに、廉は小躍りしそうなほど嬉しくなった。


 恋愛に奥手の2人。

 この手の会話自体もぎこちなく、お互いに照れる顔を隠すように視線をそっと逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る