帰宅ラッシュ時の地下鉄の駅前とあって、行き交う人が結構いる。

 そんな中で大声で呼ばれたら、いい迷惑だ。


 廉は仕方なく振り返る。


「小森さんって、……上條くんの彼女なの?」

「……お前には関係ないだろ」

「あ、あるよっ!」


 中澤の言葉に、廉の片眉がぴくっと反応した。


「お前に何の関係があんだよ」

「…………なんだもんっ」

「あ?聞こえねぇよ、言いたいことがあんならハッキリ言え。無駄な時間取りやがって。俺が学年首位から陥落したら、お前責任取れんのか?」

「っ……」

「言いたくねぇなら、帰るぞ」

「……好きっ、上條くんが好きなのッ!」

「だから?」

「え?」

「好きだから、何だってんだよ」

「っ……、それは……」

「俺は中澤のこと、好きじゃない。女として好きか嫌いかという次元じゃなくて、人として嫌いだから」

「っっっ」


 手にしているまどかのノートを持ち上げて。


「こういうことをする人間が、反吐がでるほど嫌いなんだよ」

「ぅっ……」

「俺に好かれたいなら、自分本位なんじゃなくて、他人のために努力出来るような人間になってから出直して来い」


 廉は泣き崩れる中澤に同情する気を微塵も見せず、縋り付く隙さえも与えない。

 

「また小森を貶めるようなことしたら、そん時は今日みたく優しかねぇぞ。……覚えとけ」


 横を通り過ぎるOLやサラリーマンの視線が向けられる中、廉は颯爽とその場を後にした。

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