「やるよ」


 朝陽の元に戻った廉は、ペットボトルの野菜ジュースを朝陽に放り投げた。


「廉、変わったね」

「あ?」

「いい意味で、だいぶ変わったよ」

「あ、そう」


 朝陽が言うように、今までの俺ならこういう煩わしいことには首を突っ込まなかった。

 いつだって冷めた態度で、何が起きても動じないタイプだったのに。

 自分でも不思議だと思うくらい、自分の中で何かが突き動かされている。


「寄りたい店って、何屋?」

「靴屋、……注文しておいたスニーカーが入荷したって連絡があって」


 スマホで注文画面を見せる朝陽。

 某ブランドの夏限定のカラーが欲しいとかなり前から言ってたっけ。


「それ、今から注文しても間に合う?」

「おっ、廉もおそろにする?」

「俺、こっちのカラーがいい」

「あー、俺も迷ったんだよね~」


 何事もなかったように、朝陽と会話しながらホームに到着した電車に乗り込んだ。


 *


 朝陽と靴屋に寄り道して、一旦自宅に戻り、廉は18時少し前に虎ノ門ヒルズ駅へと向かう。

 駅に到着すると、既に中澤はいた。

 1人で来るのが心細かったのか、女友達が一緒にいる。


「持って来たか?」

「……うん」

「寄こせ」

「……はい」


 差し出されたノートには『2年2組 小森まどか』としっかりと記されている。


 廉は何も言わずに踵を返した、その時。


「あのっ、……上條くんっ!」

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