もわっとした暑さが続く7月、明日からいよいよ期末考査だ。

 今日は放課後に和香の家で明日からの試験に備え、一緒に勉強をすることになっている。

 まどかは自席で帰り支度をしていると。


「小森さん、悪いんだけど、数学のノート貸して貰える?」

「え?」

「数Ⅱは最終日だし、今日くらいいいでしょ」

「……うん」


 鞄の中にしまった数学のノートを取り出して差し出す。


「明日返すね~」


 普段会話もしないようなクラスメイトが、試験前になると声を掛けて来る。

 こういうことにも、もう慣れた。

 いいように扱われていることくらい、分かっている。


 偽善者?

 自己満足?

 たぶん、その両方だ。

 手を抜く、妥協する、見過ごす。

 こういった類の感情をとうに捨て去って来た。


 空回りしすぎて、周りから憐れむような目を向けられたこともある。

 けれどそれでも、見て見ぬふりが出来ないのだから仕方がない。

 そして、絶対的な完璧……1番に拘り過ぎているということも。


「まどか、いいの?」

「……ん」


 心配そうに見つめる和香に、取り繕った笑顔を向ける。

 残りの荷物を鞄に詰め終えた、その時。


 すぐ前の席の上條くんと視線が交わった。


 数日前の出来事が蘇る。

 彼のジャージはあの翌日に返したけれど、あれ以降、彼とは会話していない。


「上條くん、また明日」

「……」


 ほらね。

 話しかけたところで、会話が広がる関係でもないもの。

 私の挨拶を軽く無視して、彼は教室を後にした。


 もしかしたら、呆れ果てているのかもしれない。

 優等生ぶらずに、ありのままでいいと言ってくれたのに、また善人を装った態度を示してしまったから。

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