「そんな両親の期待に応えるというか。大事にされればされるほど、深い愛情への恩返しというか。私を産んだことを後悔して欲しくなくて、子供なりに親の愛情に応える術が、頑張ることでしか示せなかったの」

「……」

「空回りしてることも、妬まれたり馬鹿にされたりすることも分かってる。だけど、今更性格なんて簡単に変えれなくて」

「別に、ありのままでいいだろ」

「……そうかもしれないけど」

「娘が毎日楽しく幸せに過ごしてるのが一番だと思うけど」

「……分かってるよ」

「俺にとやかく言う権利はないけどさ、もう少し肩の力抜いたら?」

「……うん」


 普段、塩対応する上條君。

 毒づきすることもよくあるけれど、今の彼は凄く優しい。


 ううん、違う。

 痴漢の時も歓迎会の時も、そしてさっきも。

 彼はいつだって優しい。

 ただそれを滅多なことが無い限り、表に出さないだけだ。


「ピアノ以外にも何か楽器演奏出来るの?」

「それ聞いて、何かメリットがあんの?」

「へ?」

「いや、突然何で聞こうかと思ったのか、気になって」

「あ……うん。歓迎会の時、楽譜も無いのにいきなりぶっつけ本番で優雅に弾いてたし、和香が上條くんは勉強もスポーツも何でも出来るって言ってたから」

「ふぅ~ん」


 いきなり質問したから変に思われたかな……?


「勉強でもスポーツでもやれば何でも簡単に出来るから、小森みたいに何かに努力したことが無い」

「……へ?」

「人でも物でも執着したことが一度もない。冷めきってるって朝陽にはよく言われる」

「……そうなんだね」


 いる所にはいるんだね。

 こっちは必死になっても1番になれないってのに。

 ちょっぴり妬ましく思いながら、隣りを歩く彼を仰ぎ見たら、バチっと視線が交わってしまった。


「……何?」

「ううん、何でもない」

 

 みんながイケメンだと言うのが分かる。

 あまりにも綺麗すぎる顔に見惚れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る