ノートに記された優しさ
1
理科室前を後にした私は、学校から上條くんと肩を並べて駅へと向かっている。
しかも、『上條』と名前入りの大きなジャージを着ているのもあって、同じ高校の生徒の視線が容赦なく突き刺さる。
我が校で絶大な人気を誇る彼は、藤宮くん以外の人を寄せ付けないオーラを放っている。
だから、こうして彼の隣りを歩いているだけで、好奇な視線が向けられるのだ。
別に一緒に帰ろうと声を掛けたわけじゃない。
勿論、言われたわけでもない。
だけど、私が立ち止まると彼も足を止める。
「上條くん」
「……あ?」
「別々に帰った方がよくない?」
「何で?」
「周りの目があるというか、……上條くんを好きな子達に誤解させちゃうと思うし」
「別に関係ないだろ。俺が誰と帰ろうと」
「……そうかもだけど」
そりゃあ、あなたが誰と帰ろうと、私には関係ないんだけど。
あなたと私以外の人達が、納得できないんだと思うのよね……。
なぜこんな流れになったのだろうか。
足の長い彼が、私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
それさえも申し訳ないのに、今着ているジャージも分不相応な気がする。
「小森に聞きたいことがあんだけど」
「……何?」
「お前、何でそんなに必死なの?」
「へ?」
「前から思ってたんだけど、何するにも空回りするほど必死だろ」
「……そうだね」
「それ、疲れないか?」
「……疲れないと言ったら嘘になるかな」
和香以外の人と、この面倒すぎる性格の話をしたことが無い。
聞かれたこともなければ、弱音を吐いたことも一度もない。
「うちの親ね、学生結婚だったの」
「……」
「若くして私を授かったから、周りからの風当たりも結構強かったらしくて。それでも産む決心をして、娘に恥じないようにって凄く頑張ってくれて……」
和香以外の人に家庭の事情を初めて口にした。
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