ノートに記された優しさ

 理科室前を後にした私は、学校から上條くんと肩を並べて駅へと向かっている。

 しかも、『上條』と名前入りの大きなジャージを着ているのもあって、同じ高校の生徒の視線が容赦なく突き刺さる。


 我が校で絶大な人気を誇る彼は、藤宮くん以外の人を寄せ付けないオーラを放っている。

 だから、こうして彼の隣りを歩いているだけで、好奇な視線が向けられるのだ。


 別に一緒に帰ろうと声を掛けたわけじゃない。

 勿論、言われたわけでもない。

 だけど、私が立ち止まると彼も足を止める。


「上條くん」

「……あ?」

「別々に帰った方がよくない?」

「何で?」

「周りの目があるというか、……上條くんを好きな子達に誤解させちゃうと思うし」

「別に関係ないだろ。俺が誰と帰ろうと」

「……そうかもだけど」


 そりゃあ、あなたが誰と帰ろうと、私には関係ないんだけど。

 あなたと私以外の人達が、納得できないんだと思うのよね……。


 なぜこんな流れになったのだろうか。


 足の長い彼が、私の歩幅に合わせて歩いてくれる。

 それさえも申し訳ないのに、今着ているジャージも分不相応な気がする。


「小森に聞きたいことがあんだけど」

「……何?」

「お前、何でそんなに必死なの?」

「へ?」

「前から思ってたんだけど、何するにも空回りするほど必死だろ」

「……そうだね」

「それ、疲れないか?」

「……疲れないと言ったら嘘になるかな」


 和香以外の人と、この面倒すぎる性格の話をしたことが無い。

 聞かれたこともなければ、弱音を吐いたことも一度もない。


「うちの親ね、学生結婚だったの」

「……」

「若くして私を授かったから、周りからの風当たりも結構強かったらしくて。それでも産む決心をして、娘に恥じないようにって凄く頑張ってくれて……」


 和香以外の人に家庭の事情を初めて口にした。

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