痛みが消える魔法

 ゴールデンウィーク明けの5月上旬。

 風が薫るような爽やかな朝、8時半頃。

 登校早々、担任に呼ばれ職員室に行くと、何故か、生徒会長が両手を合わせて拝み倒して来た。


「――――お願いっ!うちの学校、進学校だから部活より勉強第一の子が多いでしょ。引き受けてくれる子がいなくてっ」

「……それは分かりますけど」

「ね?去年弾いてくれた小森さんのピアノ、凄く反響良かったから」

「そう言われましても……」


 海外の提携校から短期留学で来る学生のための歓迎会。

 生徒会主催で催されるそれで、学校紹介の映像を流すらしいんだけど。

 取り込んだ曲を使うのではなく、生演奏を映像に合わせたいという。

 昨年の壮行会で披露した即興アレンジ曲が良かったらしく、ピアノの演奏を懇願されてしまった。


「歓迎会、いつですか?」

「えっ、弾いてくれるの?」

「他にいないんですよね?……頼める人」

「うんっ!」


 期待に満ちた視線を向けられては断り切れない。

 頼られると断れない性格なのだから、仕方ない。


「来週の金曜日の全校集会で」

「……金曜日」

「まだ10日以上あるし!」

「……分かりました」

「ありがとぉぉぉ~~っ!でねっ、コレが流す映像なんだけど、もう少し編集で足すかもしれないから、アレンジで間繋ぎして貰えると助かるんだけど!」

「……分かりました」


 生徒会長の水城みずき千歳ちとせ(3年女子)に抱きつかれる。


 ピアノは3歳から中学卒業までやっていたから弾けないことはないし、アレンジも結構得意だから何とかなるよね?

 かくして、1年ぶりに全校生徒の前でピアノを披露することとなってしまった。

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