18時少し前の駅構内。

 駅前の書店で参考書選びに手間取ったまどかは、帰宅ラッシュに巻き込まれる。


 ビジネスマンがぎゅうぎゅう詰めの電車に仕方なく乗り込んだ。

 電車のドアに張り付けられるように押し潰されながら外の景色を眺めるように立っていると、ぞわっとした感覚を覚えた。


 すし詰め状態の車内で身動き一つ取れないから仕方ないのかもしれないが、言葉にならないほどの感触がある。


 お尻部分を撫で回すように蠢く何かが。

 もしかして、これって……痴漢?


 初めて味わう恐怖。

 どんな人なのか確かめようと振り返ろうとした、その時。

 はぁ~っと、生温かい息が頬にかかった。


 ビクッと体が震える。

 怖くて、気持ち悪い。

 恐怖のあまり振り返る気力も削がれてゆく。


 次の駅に着いたら、速攻で降りなきゃ……。


 身を縮こませるように肩を竦めてぎゅっと目を瞑った、次の瞬間。

 ドンッと背中に何かが当たった。


 再びビクッと体を震わせ、無意識にパッと目を見開いた視界の先に見えたのは、長い腕が2本。

 しかも、私の体を覆うようにドアに着くように伸ばされた腕だ。


 痴漢が更に何かしようとしているのかもしれないと思ったまどかは唇をぎゅっと噛み締めて、必死にやり過ごそうと再び目を瞑った。

 すると。


「どこの駅で降りんだ?」

「ッ?!」


 突然背後から話し掛けられた。


「おいっ、聞いてんのか?無視すんなよっ」

「っ……」


 怖いこわい、何これ。

 痴漢が話しかけて来てる。


 ますます恐怖で足が震え出した、次の瞬間。


「小森、聞こえてんだろ?」

「……はひっ?」

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