第2話 迷宮<ダンジョン>配信

 結婚相手に出会って早々「必要ない」と宣言された私、リリアナであったが。

 それでも一応、追い払われるということはなかった。流石に。


 ……正直、ひやひやしたけれど。

 エミール様が王都へ帰られる馬車に、無理矢理乗せられるのではないかと内心考えていた。

 

 まあ私、迷宮攻略のため身体を鍛えていたので?

 思い切り抵抗すれば乗車拒否できただろうけれど(そんなことにならなくてよかった……)。



「リリアナ様。こちらが朝食室にございます」

「ありがとう、マディ。光がとてもよく差し込む、素敵な場所で朝食を食べられるのね。嬉しいわ」

「今日は久し振りに晴れましたからね! こんないい天気、本当にいつ以来でしょうか……」


 マディ・ツー・ハイデッガーと名乗った辺境伯の妹君、年は十代半ばだろうか。

 彼女、それから初老の執事。二人が城内の案内を買って出てくれた。

 兄と同色、紺青色のウェーブがかった長髪をふわふわと揺らしながら、マディが城内を駆けるように先導する。


「こちらが書斎ですっ。あまり片付いていなくて恐縮ですが……」

「マディ。いいのよ、畏まった話し方なんてしなくても」

「お気になさらないでください! この話し方が一番慣れているのです。その……」


 妹君マディがもじもじと、両手の指をクロスさせつつ照れる。可愛らしいお嬢様だ。


「……わたくし、実は『ミントと幽霊』のアンリエッタに憧れていて……話し方も、真似をしているというか」

「ええと……小説? かしら。そのキャラクターが好きなの?」

「! あっ、すすすすみません、忘れてください!」


 照れたようにマディが顔先で手を振った。

 マディの指先から肘上までを覆うオペラグローブが、窓からの光を反射し輝いている。


 ……軽はずみな返答をしてしまったかしら。悩みつつも、マディによる案内についていく。

 

「主寝室の隣がリリアナ様のお部屋となります。で、ですね、主寝室がお兄様のお部屋でして……」


 マディが照れたように笑う。


「――その、今日、お兄様と結婚されて初めての夜ですものね! 何かあれば、是非隣室へ……!」

「何かって、なにっすか?」

「それは、いえっ、わたくしの口からは……!」


 マディがはしゃぐように、きゃあ、と興奮した声を上げた。

 同行している初老の執事が、そっと私に耳打ちする。


「不躾と思わんでください。マディ様は少女小説趣味をお持ちなのです」


 ――なるほど、私とユリアン辺境伯を少女小説に重ねているわけね。


「マディ殿、シノはどこで寝ればいいっすか?」

「シノ様のお部屋は階下の使用人居住区に用意してありますよ」

「えっ!? シノ、リリアナお嬢様と一緒じゃないと死んじゃうっすよ!?」


 迫真の表情でシノが叫んだ。

 ……シノのベッドは深夜にでも、私の部屋へ移動しましょう。

 一人にしておくとドジって死にかねないもの……。

 

「マディ、城内の案内ありがとう。できれば明日は、領地を見て回りたいのだけれど」


 私の発言に、マディの顔色がサッと青ざめた。


「……それは、おやめになった方が……」

「? 領内で何か起きているの?」


 マディが口をつぐむ。初老の執事も首を横に振るばかり。


 その様子だけで充分、察するに余りある。

 何か――領地内で、トラブルが起きているのだろう。


 そうであれば。城の外へ出ない理由がない。

 私がハイデッガーへ嫁いだ事情、与えられた役割。

 それが、トラブルの解決である可能性だってあるのだから。


 *


 翌日。

 書斎で見つけた地図を頼りに、シノと共に領内を練り歩く。

 冒険者服を着込んだから、民に私が領主の妻とバレることもないだろう。


 同伴者はシノひとりだけれど、それで充分。

 幼少期、我が家へ仕える前に特殊な訓練を受けていたシノは、護衛任務も難なくこなす。

 ……代わりにメイドとしての仕事、例えば家事であるとかはサッパリだけれども。


 街中や農地を歩けば、すれ違う人々は――みな、顔色を暗くしていた。

 やはり何かあるのだわ。人々を脅かす問題が。


 気を引き締めつつ城下町を進んでいたところ。

 後方より騒めきが聞こえてきた。


「暴漢でも出たっすかね?」

「治安維持部隊の到着を待つより、私たちが片付けてしまう方が早そうね」


 辿り着いた広場からはたくさんの人々が逃げ出しているところだった。

 しかし一部の男性らが、木刀などを地面めがけ振り回している。


「とにかく攻撃するんだ! 力のある若い男をもっと集めろ!」

「最悪だよ、魔物が遂にこんな街中まで……!」


 ――魔物!?

 本来であれば地下迷宮に生息する、人に害をなす生き物。それが、地上へ出てきている?


 会話の内容からして、魔物の出現は今回が初めてではなさそうだ。

 これこそが――マディや街の人々を怯えさせていた原因か。


 広場に現れた脅威はスライムと呼ばれる、ヘドロ状の魔物だった。

 一般人には荷が重い相手。核となる部分を破壊しない限り、いつまでも再生し続けるもの。


「そこのお方、木刀をお貸しになって!」


 一応声を掛けたけれど、実質的に奪い取った形になってしまった。後で謝らないと。


「シノ!」

「分かってるっすよぉリリアナお嬢様ァ! ヒャーッ! 久々のいくさで超ォ! テンション上がるっすねぇ!」


 シノが飛び上がり、十字の形をした両刀の飛び道具(シノ曰く手裏剣)をスライムの四方八方へ、円を描くように投げ飛ばす。

 これでスライムの核に逃げ場はなくなった。後は破壊するだけ。


「――はあっ!」


 目一杯に力を込め木刀を振り下ろす。

 核を消失したスライムは、あっという間に溶け出して形を失った。


「これでもう大丈夫です。皆様、ご安心なさって」


 振り向いて周囲の人々へ状況を伝えると。

 わあっと、一斉に歓声が上がった。


「あんた、すげぇなあ! たった一撃で魔物をやっつけるなんて」

「見ない顔だけど冒険者かい? 助かったよ、この辺りにゃ戦える者がとんといなくてねえ」


 次々に声を掛けられ面食らっていたところ、ふと見覚えのある顔に気付く。


「あなた、木刀の御方ではありませんか。すみません、勝手にお借りしてしまって」

「何言ってんだい、おかげで助かったんだから! そうだ、その木刀は差し上げるから、また魔物が出たら頼むよ!」


 ――その他にも、民衆よりあちらこちらから感謝の言葉を掛けられる。

 顔が熱くなる。木刀をより強く握り締め直した。手汗で、滑り落としてしまいそうになったから。


 感謝されている。――お役に、立てている!


 なんて嬉しいのだろうか。こんな気持ち、久しく感じたことがなかった。

 能力が開花せず、自分の役立たずさを呪うばかりの日々だった。それが。


 ……無能力の私でも、お役に立てるなんて。


 *


 昼食時、本日初めて旦那様――ユリアン辺境伯と顔を合わせる。

 午前はどうやら領地管理に関する会合のため、早くに城を出ていたようだ。


 冷製スープに口を付ける。

 ……味に文句はない。とても美味しいわ。

 ただ、タンパク質が少ないのが……明日、城下町で鶏肉でも仕入れてこようかしら。


 しかしその前に、やらねばならないことがある。

 ――ユリアン辺境伯へ、直談判をしなければ。


 部屋に置いてきた、民より譲り受けた木刀の存在を思い出す。自らを奮い立たせるために。

 

「旦那様」


 呼び掛けられたユリアン辺境伯が視線だけを上げ、こちらをチラと見た。


「許可をください。私に迷宮を攻略する許可を」

「……!」

「えっ、リリアナ様!? 迷宮攻略だなんて、どうしてそのようなことを……」


 マディが慌てた声を上げるも、辺境伯ユリアンは相変わらず何も言わない。

 ただこちらをジッと睨むように見つめている。


「――とある伝手からお聞きしました。ハイデッガー領・第一迷宮の活性化に伴い、街中に魔物が溢れ出てきていると……」


 とある伝手などと誤魔化しているが、領民からお聞きしたのだ。ハイデッガーの現状を。


 通常であれば。迷宮がどれだけ活動的であっても、地上にまで魔物が溢れ出ることはない。

 つまり、ハイデッガー領内に存在する迷宮には何か――異変が起きているのだ。


「迷宮を攻略し異変をしずめる。そうすれば、人々は魔物に怯えず暮らせるようになります。旦那様、この迷宮攻略。私にやらせてください」


 じっ、とユリアン辺境伯を見つめる。

 しかし返事はない。静寂が場を包む。


「沈黙は許可、と言うことでしょうか? 旦那様」

「……、……いや……」


 たっぷりと間を使って、しかし辺境伯ユリアンから出てきた音はたったの二文字だった。


「……許可しない」


 拗音ようおんは一文字扱いかしら。

 だとすればこれは五文字ね。


「民は迷宮から溢れ出た魔物に難儀しております。旦那様、私にやらせてください」

「……、……駄目だ」

「旦那様、私は迷宮攻略の訓練を受けております!」

「……許可しない」


 暖簾に腕押しのように、何を言おうと拒絶以外の返信がない。

 せめて不許可の理由でも仰ってくれれば良いのに、それすらもない。


 ……本当に十文字以上喋れないのかもしれないわ、ユリアン辺境伯。エミール様の軽口ではなかったのかも。


 マディが不安げな瞳で私たち二人を見つめていた。

 この場で粘ることは、ちょっと得策ではなさそうね。


「――旦那様。どうか、ご一考を」


 ユリアン辺境伯をじっと見つめるも、すげなく視線を外される。

 ……また別日、申立てるしかないわね。


 いつの間にか昼食の場に潜り込んでいた黒猫が、間の抜けた鳴き声を室内に響かせた。


 *


 どんよりとした曇り空が天空に広がっていた。

 辺境の地へ越してきて、三日目。肌寒い一日となりそうだ。


 城での昼食を終えた後。

 今日も今日とて冒険者スタイルの衣服を纏い、譲り受けた木刀を手にシノを連れ街へ繰り出す。

 だって足りないんだもの、タンパク質。良質な筋肉はタンパク質を摂らないと維持できないのよ……。


 昨日午後に見つけた肉屋へ赴く。

 様々な種類の肉が置かれているけれども、私の目当ては鶏肉。特にささみ。


「その格好、お姉さんたち――冒険者かい?」

「そうですね、そのようなものです」

「へえ、肉の買い方で分かるよ。こんな辺境に来る冒険者にしちゃあ、中々どうして骨がありそうだ」


 肉屋の店主がレジからお釣の小銭を取り出し、枚数を数えながら――少しだけ、表情を歪めた。


「あんたも知ってるかもしれんけど、最近……近くの迷宮がよ、急に魔物が増えたみてえで。街にも魔物が溢れ出してて、困っとんのよ」

「……はい。承知しておりますわ」

「おお……おお! そうかあ、そりゃあ助かるな!」


 ぱあっ、と笑顔を浮かべた店主が、お釣りと共に袋に入ったソーセージをこちらへ差し出してきた。

 シノがソーセージの端から端までを視線でジッと辿る。


「これ、オマケだ。保冷用の氷も多めに詰めといた。――頼りにしてるよ!」


 笑顔で送り出される。

 手に――全身に感じる重みは、肉とソーセージだけのものではないだろう。


 木刀を握る手に力が入った、それとほぼ同刻だろうか。

 広場からどよめきが聞こえる。しかし昨日のような、急転直下の大混乱を含む喧噪ではない。


 シノを連れ広場まで辿り着く。やはり昨日と違い、魔物の姿は見られない。


「すみません、この騒めき、何かあったのですか?」

「ああ、なんでも子どもが一人、迷宮に入り込んじまったとか……」

「!」


 状況を把握し背筋が凍る。

 今の迷宮は活性状態にある。一刻を争う事態ではないか。


「あっ! あんた、昨日の」


 後方より声を掛けられ振り返る。

 そこには昨日スライムを退治した際、近くにいた男性の一人が立っていた。


「なあ、あんた冒険者なんだろ? 助けに行ってやれんか、あんたなら実力も確かだ」

「冒険者……冒険者のお方なのですか!?」


 悲痛な女性の声と共に、婦人が近寄ってきた。

 ――察する。きっと彼女の子どもこそ、渦中の存在なのだろう。


「こんな……身勝手なお願いをするのも申し訳ないのですが、冒険者のお方、もし……もし迷宮へ行かれるのでしたら……!」


 その先の言葉を聞く必要など、一切ない。

 この場において、選択肢などたった一つしかないだろう。


 例えそれが、辺境伯の意に沿わぬものであったとしても。


「……ええ。大丈夫ですよ、ご婦人。お子様は、必ず私が助け出してみせます」


 一瞬で歪んだ婦人の顔が、彼女の掌に覆われる。


「すみません、誰か、迷宮の場所を教えてはくれませんか!」


 私の問いかけに何人もの人々が振り向いた。

 皆、協力的だ。子どもの為に動ける人間が、こんなにもたくさんいる。


 ……良い領民、良い領地じゃない。


 *


 迷宮の入口で道案内を買って出てくれた方と別れる。


 申し訳程度に石で塞がれた入口は、障害物を持ち上げ移動させてしまえば簡単に中に入れた。

 これでは魔物も街へ侵入し放題だろう。入口より伸びる迷宮地下一階への階段を降りながら思う。


「リリアナお嬢様、見つけたっす!」


 コウモリを鷲掴みにしたシノが『褒めて』のオーラでこちらへ向かってくる。

 わしわしと頭を撫でたら満足したようにゴロゴロ鳴いた。獲物を見つける速さまで猫のようだ。


 コウモリ――『映像記録コウモリ』に、冒険者マーカーを挿す。これで配信準備は完了だ。



 アランブール王国の冒険者たちは、迷宮探索を配信することが義務付けられている。

 理由は主に二つ。

 

 一つは脱税防止(迷宮で見つけた財宝には、一割の取得税がかかる)。

 財宝取得の隠蔽を阻止するため、冒険者が配信した映像を税務調査官が監視しているのだ。


 二つ目の理由、それは――『王位継承の珠』出現迷宮の調査だ。

 国内どの迷宮に出現するか分からない王位継承の珠を、配信映像を元に出現迷宮を探るのだと聞いている。


 迷宮の奥へ進む。映像記録コウモリが私たちの様子を記録配信するべく後をついてくる。


『シチョウニンズウ ガ ヒトリ フエマシタ』


 映像記録コウモリが人の言葉を真似たような片言で告げた。

 もう税務の監視役が視聴を始めたのか。

 それとも一般視聴者かしら。『映像投影ネコ』を飼っていれば、迷宮配信の様子を見ることも可能であるから。


『――何をしている!?』


 急に映像記録コウモリが叫ぶ。


「……あれ、さっそくコメントついたっすね」

「何をしているって、迷宮探索ですわよ、コメントの御方おかた


 迷宮探索の配信をしているのだから、当然、迷宮の探索をしているのだ。

 そんなことを聞くためにコメントを飛ばすなんて(視聴者が映像投影ネコを撫でながら発したコメントは、映像記録コウモリが発声するシステムになっている)奇特な方ね。


『……!』

『そうか、聞こえてしまうんだったか』

 

「? もしかしてこの人、ネコ撫でてひとりごちてただけっすか?」

「何をしている――って発言は私たちにでなく、ネコに対して言った可能性があるわね」

「ネコ撫でてたら反撃されたっすかね~? シノはいつナデナデされても嬉しいっすけどね!」


 ナデナデ待ちの体勢となったシノの顎下を撫でつつ迷宮の奥へ進む。

 三体ほど、迷宮への侵入者である私たちを排除すべく低級魔物が飛び掛かってきた。

 木刀を振り下ろし一瞬で絶命させる。この程度なら蚊を叩くより容易いわ。


『お前たち……ハイデッガー領・第一迷宮が今、どういった状況か把握しているのか?』


 あら、これは。

 今度こそ、意図して私たちへ向けられたコメントのようね。


「ええ、魔物が活性化しているとお聞きしておりますわ」

「活性化してるって言っても、大したことない魔物しかいなさそうっすけどね~」

「それは私たちが訓練を受けているからだわ、シノ。一般人ではひとたまりもないわよ。ましてや子どもなんて」


『――子ども、だと?』

『まさか子供が迷宮に入り込んだのか?』

『そんな報告は聞いていないぞ……』


 コメントが立て続けにコウモリより発される。

 しかし視聴人数が増えた形跡はない。一人でいくつもコメントされているのだろう。

 どうにも早口の御方だ。


「コメントの人、質問多いっすね」

「疑問があるなら応えるのが冒険者の責務よ。コメントの御方、お答えしますわ。城下町より、幼子がひとり迷宮に立ち入ってしまったの。私たちはその子を救出すべく探索を進めています」


『……事情は分かった』

『だが危険すぎる。探索隊を向かわせるべきだ』


 随分と悠長なことを仰る御方だこと。


「幼子の命に関わる話ですのよ? 探索隊を組む時間も惜しい」


『幼子の命だけでなく、お前の命にも関わる話ではないか!』

『危険を顧みない行いは蛮勇としか言えない』

『幼子を心配に思う気持ちは分かる。だがお前自身のことも考えろ。命を落とす前に引き返せ』


 ……もしかして、コメントの御方。

 私のことを心配してくださっている?


 不思議な感覚だわ。

 ティエリ王子を助けるため側室長男を殴り倒して以降、誰かに私の身を心配されることなどなかった。


 なんだかくすぐったい心地。悪くはない気分ね。

 ――でも、私には不要なもの。


「心配ご無用ですわ、コメントの御方」


『――危ないッ!』

『言わんこっちゃない、くそッ』

『ここからどうにかできるか!? いや、間に合わ――』


 コメントの御方が慌てふためいている、その理由は既に見えている。


 背後に低級魔物――緑の肌を持つ小型の怪物・ゴブリンの群れがいて。

 棍棒を振り上げ、私目掛けて叩きつけようとしていることくらい、理解している。

 けれどまだ振り向かない。私は囮だ。


 充分にゴブリン達を引き付けてから、振り返る。

 同時にシノの手裏剣が、ゴブリンの足を床へと縫い付けた。


「アッハァ――! おっそ! 止まって見えるっすねえ!」

『! まさか』


 息を呑んだ音が聞こえた。

 その時には既に全てが終わっていた。


 ゴブリンなんて何体いようと関係ない。

 全部叩いて砕けば終わりだ。


「コメントの御方、お分かりになられたでしょう? 私、身体を鍛えておりますので」


 王子に役立たずと罵られ捨てられた、無能力者。

 ――それが私だ。でも。


 鍛えたこの身体だけは、私を裏切らない。


『お前、強いんだな……』

「リリアナ、ですわ」


 あ。配信では本名を公表せず、冒険者ネームを使うのが主流だった。

 まあいいか。どうせ視聴者はコメントの御方ひとりなのだ。


『……リリアナ』


 意外なことに、コメントの御方が発する私の名は。

 既に呼び慣れた名を呼ぶように、非常に滑らかな発音であった。

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