第5話 悪戯っ子な双子たち
そこには、光を受けて淡く輝く金髪が美しい五歳の双子の男の子たちが待っていた。どちらもラベンダーの花を思わせる柔らかな紫の瞳を持ち、見る者を思わず引き込むような魅力を放っている。顔立ちはまるで彫刻のように繊細で、整いすぎているほどだ。ほっそりした輪郭に長い睫毛、その姿には気品が漂い、まさに絵画から飛び出してきたような美しさだった。
ルドマン家の庭は広大で、整然と手入れされた花壇がいくつも並び、四季折々の花が咲き誇っている。中央には噴水があり、その周囲には高木と低木が巧みに配置され、自然の中に芸術的な景観を生み出していた。花壇の奥には遊び場があり、アスレチックの遊具やブランコがそろっている。その先には砂場やボール遊びができる広場もあり、子供たちが思い切り走り回れる場所として作られていることが見て取れた。
「先生、初めまして。僕は兄のチャスです」
「先生、初めまして。僕は弟のデニーです」
二人は口を揃えて挨拶すると、いたずらっぽい笑みを浮かべながらプリムローズを見上げた。見た目も声もそっくりで、ぱっと見ただけでは区別がつかないほどだった。
「まあ、お庭までわざわざ出てきて、私を出迎えてくれたのね? ありがとう。とても嬉しいわ。でも、うーん……どっちがどっちだったかしら。やはり、双子だけあってそっくりなのね」
プリムローズがつぶやくと、二人は小さな肩を震わせて笑い合う。その姿は微笑ましいが、どこか小悪魔的な雰囲気も漂っていた。
「それにしても、あなたたちのお母様はとても美人だったのでしょうね」
プリムローズはふと、学園長から聞いた言葉を思い出してつぶやいた。ラベンダーの色彩を宿した双子の瞳に、その母親の儚さが影のように浮かび上がる気がしたのだ。――亡くなった奥方にそっくりな子供たち、きっと奥方は絶世の美女だったに違いない。
「そうだよ」
先に口を開いたのはチャスなのか、デニーなのか、どちらかはもうプリムローズにはわからない。ただ、どちらもにっこりと笑みを浮かべながら、口調だけは妙にしっかりしていた。
「お母様は病弱だったけど、とても綺麗だったんだ。侍女たちがいつも言ってるよ」
「でもさ、先生は……あんまり綺麗じゃないよね?」
最後の言葉は、からかうように軽い調子で放たれた。もう一人の双子は、その言葉にいたずらっぽい笑みを浮かべながら横から「そうだね!」と調子を合わせる。
――やれやれ。これは試しているのね。私を怒らせて、どう反応するかを見たいのかしら?
「そうね」
プリムローズは一度深呼吸すると、双子の目を見据えながらゆっくりと答えた。
「あなたたちのお母様に比べたら、確かに私は綺麗じゃないと思うわ。でもね、私は自分の顔がとても気に入っているのよ」
双子は予想外の返答に、ぴたりと動きを止めた。プリムローズの言葉は静かだが、どこか力強く、真剣だった。
「だって、私の目は母に似ていて、口元は父に似ているのよ。大好きな人たちに似た顔に生まれて、私はとても幸せだと思っているわ」
その言葉に続けて、プリムローズは満面の笑みを浮かべた。そんな彼女の笑顔には、彼らがあえて挑発したことをまったく気にしていないような余裕すら漂っていた。その笑顔は双子にとって想定外だったようだ。
「……なんか、変な人だね」
少し間を置いてから、チャスがぽつりと言った。それにデニーがくすくすと笑い声を漏らしながら付け加える。
「うん。でも、悪くないかもね」
それを聞いたプリムローズもまた、心の中で苦笑いを浮かべていた。
――やっぱり子供って、苦手だわ。……でも、やってみるしかないわね。
そう思いながら、彼女は双子の横を歩き始めた。庭に咲く花々と、どこまでも広がる青空の下、これからの日々にどんな出来事が待っているのかを少しだけ不安に思いながら……
玄関ホールに足を踏み入れると、まず目を引いたのは高くそびえる天井と、シャンデリアが放つ柔らかな光だった。床には大理石が敷き詰められ、滑らかな鏡面が微かに人影を映し出している。両側に広がる柱は彫刻が施され、その豪奢な装飾は、アルバータスの豊かさと成功を物語っていた。ホールの奥には二手に分かれた大階段があり、絨毯が階段を包み込むように敷かれていた。
侍女長が静かに挨拶をしながら、プリムローズを部屋へ案内してくれる。廊下を進む間、目に入るのは壁一面に飾られた油絵やタペストリー。細やかな模様が織り込まれたカーテンが窓にかかり、豪華さと品の良さが見事に調和している。その間を抜け、到着した部屋の扉の前で侍女長が鍵を開けた。
「本日から、こちらが先生のお部屋でございます。どうぞ、お入りくださいませ」
しかし、プリムローズは扉の前でふと足を止めた。どこからともなく、双子たちの好奇心に満ちた視線が突き刺さるような気がしたのだ。背後に目を向けると、チャスとデニーが少し離れた廊下の端で並んで立ち、にこにこと天使のような微笑みを浮かべている。無邪気で愛らしいその笑顔に、悪意などあるはずがない――そう、普通なら思うところだろう。
――気のせいよね。
心の中で軽く肩をすくめ、プリムローズは扉に手をかけた。そして、ごく自然な動作でそれを押し開けた次の瞬間。
「きゃっ!」
頭上から容赦なく冷たい水が降り注いだのだった。
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