AIへの人間面接
ちびまるフォイ
目の上のガン
「しかし社長。人間がAIを面接するだなんて
時代も変わりましたなぁ」
「うむ。我が社も協業他社に遅れをとっている現状。
打開策としてAI導入は避けて通れぬのだよ」
「さすが社長! 大手になっても挑戦者!! よっ!」
「ではひとりめのAI、入ってください」
「失礼します!」
AIが席につくと面接がはじまった。
「君はどんなAIなのかな?」
「はい! なんでもできるハイスペックAIです!」
「ほう」
「計算、検索、コード生成、議事録作成。
ひいては明日の天気まで予想できちゃいます!」
「なるほど。それはすごい」
面接を担当する部長と社長は、
AIからは見えない机の下でノートの切れ端を行き来する。
『すごそうですが、社長はいかがですか?』
『うーーむ』
『なにかご懸念が?』
『優秀すぎるな』
『というと?』
『なんでもできるというのは器用貧乏になりやすい。
私が若い頃も同じような人間がごまんといたが、
社長になったのは私のようなハングリー精神の奴だ』
『なるほど。では不採用ですね』
『うむ。我が社に求められるのはもっと尖ったAIだ』
部長は応募AIへ向き直ると宣言した。
「今回は御縁がなかったということで。次の方どうぞ」
「失礼します!」
次に入ってきたのは見るからに頭の悪そうなAIだった。
「君は……何ができるのかな?」
「基本なにもできません!!」
「ええ!?」
「ですが、エッチな動画を探すのは誰よりもうまいです!!」
「ほう」
これには社長が食いついた。
「なぜそのようなAIを?」
「社長は成人男性が1週間でエッチなものを探す時間をご存知ですか?」
「2時間くらいか?」
「200時間です」
「なんだと!? 1週間を超えるほど探しているのか!!」
「現代はマネーゲームではなく、タイムゲーム。
時間をどれだけ節約したかが結果に結びつきます。
つまり、この禁断の時間を私は縮められるのです!!」
「それはすごい!」
社長はノリノリだったが、部長が机の下で密談を行う。
『社長、採用されるんですか?』
『求めていたのはまさにこういう尖った人材だよ』
『尖りすぎて逆に反感買いますよ。
我が社が推し進めている女性積極採用にも
なんか別の意味が含まれると誤解されます』
『あんなもの建前じゃないか』
『それはそうですが、対外的にも印象悪くなりますよ』
『くそぅ……じゃダメか』
『社長、歯を食いしばらないでください。相手にバレます』
密談を終えると部長はまた候補者につたえた。
「今回は御縁がなかったということで。次の方どうぞ」
次のAIが入ってきた。
「あなたはどんなAIなんですか?」
「はい。私はAIのような分析などはできませんが、
その代わり、人間の能力の数値化ができます」
「ほう。それは……具体的にいうと?」
「たとえば、この組織の人間を能力を数値化できます。
成果だけではなく、人間関係や、周囲からの信頼度。
それらを数値にしてパラメータを出力できます」
「なるほどよくわからん。よくわからんものは不採……」
社長が脳死で答えそうになったタイミングで、
部長が机の下からまったをかけた。
『社長、これは有益なAIですよ!?』
『どこがだ? AI特有のよくわからん機能しかないじゃないか』
『ちがいます。これは人件費カットができます』
『なに!?』
『会社が大きくなると、どうしてもそこには有能無能の差がでます。
このAIはそれを客観的に評価してくれるというんです』
『そ、それはすごい! めっちゃ時間かけてやっている
リストラ会議もやらなくてすむのか!!』
『それにAI側でジャッジするから、心も痛みません!』
『たしかに。心痛むから最近はえんぴつ転がして決めてたものな』
『このAIを雇えば会社のガンをていよく追い出すことができ
会社全体の生産性を大いに上げることができるでしょう!』
『人材が一番コストカットしにくいくせに、一番コストかかるからな!』
部長と社長は顔を見合わせた。
「採用です。おめでとうございます」
その言葉にAIは大喜び。
「本当ですか! やったーー!」
「これからはその類まれな人間への分析力をいかし、
我が社に住み着く寄生虫をことごとく退治してください」
「君には人事を好きなようにする権利も与えよう!」
「ありがとうございます!!
必ずや、この会社のお荷物を追い出してみせます!!」
AIは大喜びで自分の能力のすべてを使った。
そして、社長と部長が一番最初にリストラされた。
AIへの人間面接 ちびまるフォイ @firestorage
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