29 燃え残る渇望

俺は足元に散らばる肉片と血の池を眺めながら、呼吸を整えていた。

ヴァーミリオンドレイクの巨体が崩れ落ちる音が耳を打ち、焼けた肉と血の臭いが鼻を刺す。

全身が鉛のように重く、腕一本動かすたびに、筋肉が悲鳴を上げた。


「……終わったか。」

口から漏れた声は、自分でも聞き取れないほど低い。

それでも、足元に転がる魔物の骸が、この戦いが確かに終わったことを物語っていた。


だが――それでも俺の中の飢えは収まらない。

心臓がまだ熱を持ち、脈打つたびに渇望を煽る。喉が乾くような感覚が全身を支配していく。


「次だ…」

俺は霊刃を腰に戻しながら周囲を見渡した。

地面に散らばる骨の破片と、焦げ付いた大地の裂け目。そこからまだ微かに立ち上る炎と煙が、戦場の余韻を焼き付けている。


「修羅、お前の体は限界に近い。少し休め。」

神威の声が脳内に響く。言葉には警告の色が混ざっていたが、それを意識する前に俺の体は次の行動を探し始めていた。


「…次が来る。それだけだ。」

俺は言葉を吐き捨てるように呟いた。だが、その瞬間、足が震えた。

疲労が体を蝕み始めているのは間違いない。

仕方なく、一歩退いて地面に腰を下ろす。

周囲に漂う血臭と煙の中、俺は深く息を吸い込んだ。


それでも、心の奥では次の獲物を想像している自分がいる。

鋭い爪が引き裂く音、骨が砕ける感触、刃が肉を裂き、血が噴き出す熱――そのすべてが俺を満たしてくれるはずだ。

だが、満たされることはない。だからこそ、次へと進む。


「お主、戦闘が麻薬のようになっているな。」

神威の声が嘲るように響くが、俺はその指摘を無視した。

欲望に従うことが、生きている実感を与えてくれるのだ。


立ち上がり、血まみれの地面を蹴る。

足元に転がるドレイクの魔石を拾い上げると、手のひらの中で冷たさが心地よく広がった。

「行くぞ」

俺は短く呟き、戦場を後にした。



血と泥にまみれた体を引きずり、俺は小さな町の道具屋に辿り着いた。

店内に足を踏み入れると、狭い空間に詰め込まれた商品から漂う異様な匂いが、血の臭いを押し流していく。


「また来たか。」

店主は俺の顔を見て笑ったが、その視線は俺の傷だらけの体と焦げ跡に注がれていた。

「次の戦いか?見たところ、もう限界だろうに。」


「余計な世話だ。」

俺は短く言い放ち、陳列されたアイテムに目を走らせる。

回復薬、補助の魔法具、そして新しい武器――どれも次の戦いを支えるためのものだ。


「これをくれ。」

俺は黒い液体の入った瓶と、鋭い刃がついた手斧を指差す。

店主は頷き、無駄な言葉を挟むことなく商品を差し出した。


「次はどんな相手だ?」

店主の問いかけに答えず、金を払いそのまま背を向けた。

俺の中で既に次の戦いのイメージが広がっている。

血と火花が飛び散る中で俺が立つ姿――それだけが俺を前へ進ませる。




足元に広がる道は、次の獲物へと俺を導いている。

その先に何が待つのか、どんな血の海が広がるのか――それを考えるだけで胸が高鳴る。


神威が再び声を上げた。「お主、飢えに飲まれるなよ。」

「俺は俺だ。それだけだ。」

短く返すと、俺は歩を速めた。

血と鉄の匂いを纏いながら。


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