28 渓谷の咆哮
赤い渓谷の入り口に立つと、岩肌に刻まれた血のような赤い線が視界を支配した。
風は熱を帯び、全身にまとわりつく湿り気が肌を焦がすように感じられる。
奥から感じる威圧的な気配――炎の獣が俺を待っているのは間違いない。
「あの竜には炎で挑んではならぬ。奴の炎を煽るだけだ。」
神威の冷静な声が霊刃を通じて響く。
霊刃を握り直し、静かに笑みを浮かべた。
「わかってる。狩る方法ならいくらでもある。」
険しい岩壁を越え、渓谷の奥へと足を踏み入れる。
熱風が肌を叩き、全身を汗が流れる。
だが、足を止める理由にはならない。
岩陰から見えたのは、赤く燃え上がる巨体だった。
ヴァーミリオンドレイク――全身を炎で纏った竜が、渓谷の空を染め上げていた。
熱風が吹き荒れるたびに、周囲の空気が揺れる。
地面の岩がひび割れ、焦げた匂いが漂う。
俺の胸が高鳴る。
あの巨体を倒すためには、炎を超える狩りの技術が必要だ――そう理解するたびに、全身が狩猟の快感で熱くなる。
「奴の防御は高い。炎では突破できぬ。氷結や雷で隙を作れ。」
神威の助言に、俺は冷静に頷いた。
ヴァーミリオンドレイクが咆哮を上げた瞬間、周囲が炎の嵐に包まれる。
猛火が迫り、地面が焼き尽くされていく。
俺は横に跳躍し、辛うじて炎を回避する。
「その火に触れたら骨まで焼かれる――触れるわけにはいかない。」
すぐさま魔法陣を展開し、防御のバフを纏う。
炎に挑むには、炎ではなく――氷。
左手に魔力を集め、周囲の熱を打ち消す冷気を発動する。
「凍てつけ――――『氷柱の牢』!」
地面から
鋭い氷柱が生え
奴の巨体を
捕らえるように絡みつく
氷の刃が
肉を削り
赤黒い血が
滴り
落ちる
再び咆哮を上げ、炎をさらに燃え上がらせる。
その熱量が氷を溶かし、蒸気が渓谷全体に立ち込めた。
「これじゃ足りないか。」
俺はさらに魔法陣を展開し、雷撃系の魔法を準備する。
「沈め――『雷槍』!」
天空から落ちる雷の槍が巨体を貫き、渓谷全体が稲妻の光で染まる。
雷の刃が奴の外殻を焼き切り、内部を震わせる。
奴が一瞬怯むのを見逃さず
霊刃を黒炎ではなく、純粋な魔力で纏わせた。
この一撃で炎を断ち切る――そう心に決めて刃を振り下ろした。
刃が奴の胸部を貫いた瞬間、魔力が渦を巻く。
咆哮が渓谷に響き、赤い炎が静かに消えていった。
血の匂いが立ち込める中、俺は魔石を拾い上げる。
その冷たい輝きに目を落としながら、霊刃を収めた。
「炎で倒せぬ相手をこうして仕留める――いい狩りだった。」
神威の冷静な声を聞き流しながら、俺は静かにその場を後にした。
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