27 血の渇望

砂塵がわずかに舞う道を、俺は一歩ずつ進んでいた。

戦闘の熱がまだ体に残る中、次の狩猟場を目指しているはずだったが、足は妙に重い。

心の中で燻る何かが、歩調を鈍らせていた。


「俺は…何のために狩りをしているんだ?」

思わず立ち止まり、静かに呟いた言葉が自分の耳にも空虚に響く。

狩猟本能が次の戦いを求める一方で、過去の戦闘が鮮明に蘇り、漠然とした疑問が心を占めた。


「ただ強くなりたいから?それとも、これがただの欲求なのか?」

問いを重ねるたび、胸の奥に鈍い痛みが広がる。

刃を振るい、魔物を討つ。それが今の俺の全てのはずだった。

だが、その理由さえ揺らぎ始めていることに、俺は気づいていた。


「修羅よ、己に問う声が心に響いているな。」

神威の静かな声が、不意に沈黙を破った。

その言葉には咎めるような響きも、答えを示すような響きもない。


「……神威、俺はただ強くなりたいと思っていた。だが、それだけじゃ足りない気がするんだ。」

俺は足元に目をやりながら、内心のざわつきを口に出した。


「強さを求めることに限界はない。だが、その先を見据えねばならぬ。」

神威の言葉は重く響き、俺の胸の奥を深く貫いた。

しばらく沈黙が流れ、俺は問いかけに囚われながら歩き始める。


「狩猟を続け、魔物を討つ。それが俺の生きる理由だと思っていた。だが、最近それだけじゃ満たされなくなってきた。」

足元の砂を踏みしめながら、言葉を絞り出した。


そんな時、町外れに小さな道具屋が目に留まった。

喧騒が響く通りにひっそりと佇むその店は、妙に落ち着く空気を放っていた。

俺は吸い寄せられるように店内へ足を踏み入れた。


「次の戦いのために、少しでも準備を整えなければな。」

棚に並ぶ道具に目をやりながら、心を整理するように自分に言い聞かせた。


店主に声をかけ、一通りの道具を揃える。

武器を磨く油、霊刃を包む布、魔石の光を補充する薬液。

そのどれもが次の戦いでの俺の命綱になるだろう。


店を後にし、道を再び進む頃には、心が少し軽くなった気がした。

だが、胸の奥には依然として答えのない問いが残る。


「狩りを続ける理由がわからなくても、足を止めるわけにはいかない。」

俺は新たに手に入れた道具を確認しながら、遠くに見える次の狩猟場を見据えた。


「行け、修羅よ。迷いもまた力となる。次の一手に繋げるのだ。」

神威の声が風に溶け、俺の心を揺らした。

それでも俺は歩みを止めず、砂の先に待つ未知の戦いに向かって進み続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る