20 運命の選択

渓谷の入り口に立つと、霧が全てを覆い尽くすように漂っていた。

冷たく湿った風が全身を撫でるたび、空気が重く肌にまとわりつく。

その中に潜む威圧的な気配――獲物の存在が全身を震わせる。


「修羅、霧そのものが術だ。奴はこの霧を操り、お主を捕らえようとしてくる。」

神威の声が霊刃を通じて響く。


俺は静かに息を吐き、魔力を全身に巡らせた。

「問題ない。感じ取るだけだ。」

一歩踏み出すたび、霧が絡みつくように体にまとわりつく。

だが、その粘りつく感触すら、獲物を捉える感覚を研ぎ澄ませるだけだった。


霧の中から巨大な影がゆっくりと姿を現す。

鋭い爪と漆黒の外殻、無数の赤い瞳――それが暗闇の中で光り、異形の威圧感を放っている。

その姿を目にした瞬間、神経がざわめき、心臓が高鳴る。


「カースエンプレス――呪いを操る女帝だ。奴の呪いは肉体だけでなく精神を侵食するぞ。」

「やれることをやるだけだ。」

俺は霊刃を握り、即座に魔法陣を展開した。


「まずは視界を奪わせてもらう。」

背後に閃光魔法を放つと、霧の中に強烈な光が炸裂する。

その瞬間だけ視界が開け、俺は一気に空を舞ってカースエンプレスの懐に滑り込んだ。


奴の無数の目が

不気味な光を放つ


次の瞬間

全身を

縛る

ような

嫌悪感

襲って

きた



足元から黒い触手が這い上がり、俺を捕らえようと迫る。


「呪いだ!触れれば動きを封じられるぞ!」

「触れさせない。」


高度をさらに上げ、触手の届かない位置へと跳び上がる。

空中で姿勢を整えながら、左手に魔力を集中させる。


「凍てつけ――『氷槍乱舞』!」

無数の氷槍が空から降り注ぎ、霧を凍らせ、奴の外殻を軋ませた。

だが、その冷気すらも奴の呪いには届かない。

黒い霧が濃密な触手となり、空中をも追尾してくる。


奴の触手が次々と新たな形を取り、俺の魔法を侵食していく。

「分断するのだ。呪いの力がどこから発せられているかを見極めよ。」

神威の助言に、俺は冷静さを取り戻し、再び霊刃を握り直した。


魔法陣をさらに展開し、光と音の衝撃を放つ――『響爆光環』を発動させる。

閃光と爆音が霧を切り裂き、奴の触手が一瞬だけ動きを止める。


その隙に、俺は霧の中心を貫くように、奴の胴体を狙った。

だが、カースエンプレスが霧を操り、再び全方位から触手を送り込んでくる。


俺は加速し、動きを止めずに霊刃に全魔力を注ぎ込む。

黒炎が刃先から燃え上がり、俺の手元に焼ける感触を伝える。


「燃え尽きろ―『黒炎嵐撃』!」


黒炎が刃先から渦を巻き、核へ突き進む。

触手が焼ける音と共に、霧が焦げた匂いを漂わせた。

刃が核を貫いた瞬間、黒炎が爆発し、奴が弾け飛ぶ。


裂けた肉片が霧と混ざり合い、飛び散った血が地面に降り注ぐ。

その血は俺の顔や腕にまでかかり、焼けた金属のような匂いが鼻を刺す。


奴の叫びが静寂に変わり、巨体が崩れ落ちるとともに、俺の中には何とも言えない高揚感が広がった。


達成感、快感、充足感――


全てが

混ざり合い

俺を

満たす


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