19 試される意志
崩れ落ちた巨体が森に残る静寂を裂くように、黒い霧を吐き出し始めた。
その霧が空間を捻じ曲げ、異様な形状を作り出していく。
俺は霊刃を握り直し、息を整えた。
「まだ終わっていないぞ。核が完全に破壊されていない!」神威の警告が霊刃を通じて響く。
「面倒なことになったな…」
俺は地面を蹴り、一気に距離を取った。
霧の中で蠢く巨体は、先ほどの姿をはるかに超える威圧感を放っていた。
異常に発達した腕、鋭い牙、そして全身から漏れ出す禍々しい魔力――完全に進化した狩猟者の形だ。
魔物の咆哮が森全体を震わせた。
その音が肌を刺し、空間に圧力を与える。
「奴の動きはさっき以上に速くなるぞ。力任せでは持たん」
俺は手元から別の巻物を取り出し、地面に向けて広げた。
「炎網の巻物――展開!」
巻物の魔力が
地面に広がり
赤い魔法陣が輝く
その中心から無数の炎の網が広がり、奴の脚を絡め取った。
炎の力が瞬時に奴の動きを封じ、さらに体表を焼き付ける。
「少しは動きが鈍るだろう」
俺は霊刃を握り直し、魔法陣を重ねるように展開した。
奴が炎網の拘束を引きちぎろうと力を込めるたび、地面が軋み、森が揺れる。
その隙を狙い、俺は氷結系の魔法を準備する。
「凍てつけ――『氷柱の牢』!」
地面から突き上がる氷柱がさらに奴の動きを制限する。
氷と炎が絡み合い、奴の巨体が徐々に動きを鈍らせていくのが見えた。
俺は空中へ跳び、さらに魔法陣を展開する。
「貫け―『雷槍』!」
天空から雷の槍が放たれ、奴の中心部を貫く。
閃光と轟音が森を揺るがし、巨体の外殻が焼け焦げた。
奴の胸元が青白く光り始めた瞬間、全身が警鐘を鳴らした。
「奴は自壊覚悟の攻撃を仕掛けるつもりだ!」
「その前に!」
俺は霊刃に全魔力を注ぎ込み、黒炎をさらに強く纏わせた。
だが、ただの魔力だけでは奴を完全に仕留めるには足りない――その確信が俺を動かす。
俺は腰に装備していた「嵐の加護石」を手に取り、霊刃の柄に嵌め込んだ。
このアイテムは魔法の威力を一時的に引き上げるが、膨大な魔力を消費するという代償がある。
「嵐の加護石―解放!」
刃が
光を放ち
黒炎に
さらに雷光が加わる
風と雷が絡み合い
刃全体が
嵐そのものとなる
高度を上げ、嵐を纏った霊刃を掲げたまま一気に急降下。
刃が
奴の核を捉えた瞬間
内部で
嵐と黒炎が
爆発を巻き起こす
巨体が崩れ落ち、その残骸が完全に霧散していく。
断末魔の咆哮が森全体に響き渡り、静寂が訪れた。
手に残る刃の震えが、狩猟の達成感を伝えてくる。
「嵐の加護石も悪くないが消耗が激しい……」
息を整えながら呟く俺に、神威が微かに笑いを含んで返す。
「見事だが…次を見据えた策は常に必要だぞ」
全身に駆け巡る達成感が
俺を包み込み
体中から
快感が
溢れる
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冷たい朝霧が湿地を覆う中、俺は静かに霊刃を鞘から抜いた。
黒い刀身がわずかに光を反射し、手の中で心地よい重みを伝えてくる。
神威の気配が微かに刀身から伝わり、それが俺の集中を研ぎ澄ます。
「修羅、型の練習か。お前が静かに動く時間は珍しい」
神威が冷静に声を響かせるが、俺は答えない。
言葉を介さず、ただ動きで意志を示す。
深い呼吸とともに、体の軸を整え、静かに一歩を踏み出す。
第一型――「影縫い」
重心を低く構えながら、刀をゆっくりと水平に振る。
その動きは無駄がなく、刀が空気を裂く微かな音が耳に心地よい。
体の軸をぶらさず、足の運びに合わせて刀を斬撃から防御の形へと移す。
この型は、相手の動きを封じるための基本だ。
だが、基礎こそが戦いの全てを支える。
俺は再び足を運び、次の型に移った。
第二型――「風裂き」
刀を頭上に振り上げ、一気に斜めに振り下ろす。
その勢いで体をひねり、連続した斬撃を空中に描く。
この型は攻撃に特化しており、一瞬の隙を狙う動きが求められる。
だが、速さを求めるあまりに力が分散すれば、型の意味は消える。
「修羅、その速さだと敵を倒しきるには足りない。力を込めろ」
神威の指摘に、俺は僅かに笑った。
「型は練習だ。本番で仕留めればいい」
再び斬撃の速度を上げ、風が俺の足元で舞い上がるのを感じた。
第三型――「無音の刃」
刀を正面に構えたまま、体を前へ滑るように進める。
足音を最小限に抑えながら、一撃を繰り出す。
この型は敵の死角に入り込み、不意を突くためのものだ。
刀の角度、力の入れ方、そして全身の動きを一つにする必要がある。
「修羅、その動きはいい。だが、体をさらに沈めろ。相手の視界に入るな」
神威の言葉に従い、重心をさらに低くし、膝を柔らかく使う。
そのまま刀を横一閃させ、仮想の敵を切り裂く動作を完成させた。
第四型――「黒炎の舞」
この型は攻防一体の動きで、最も高度な技術が求められる。
刀を高速で回転させながら、斬撃と防御を連続して行う。
その動きは流れるようでありながら、一つ一つに重みがある。
俺は刀を振り、空中で虚空を切り裂くたびに体全体が熱を帯びるように感じた。
汗が額を伝い、呼吸が荒くなるが、それでも動きを止めない。
「いいぞ。その型を完成させれば、戦場での動きはさらに洗練される」
「完成なんてない。型は磨き続けるものだ」
刀を最後に大きく振り抜き、俺は静かに動きを止めた。
呼吸を整え、刀を鞘に収める。
周囲は静寂に包まれていた。
俺の足元に散らばる露が、さっきまでの動きの激しさを物語るように光っている。
型の練習は地味で単調だ。
だが、この積み重ねが戦場で生きる。
俺は再び深呼吸をし、次の練習に備えた。
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