17 迫る影

森の開けた場所に漂う濃厚な魔力が、周囲の空間を捻じ曲げるように存在感を放っている。

目の前に現れたのは、一瞬だけ形を見せた巨大な影――明確な輪郭は見えない。

だが、その気配は圧倒的だった。


「修羅、奴は気配を完全に制御している。通常の魔物のようにはいかんぞ」

神威の声が冷静に響く。


「面倒な獲物だな。だが、見えなくても殺せる」

俺は霊刃を構え、いつでも攻撃に移れる体勢を取った。

目を細め、闇の中に潜む何かを見極めようとする。



空間が震えるような低い唸り声が響き渡った。

影が一瞬だけ動きを見せ、次の瞬間にはその巨体が宙を跳んで俺に迫る。


「早い!」俺は瞬時に透明化の術を発動し、横へ飛び退った。

だが、奴の爪が地面を抉る音とともに、周囲の風圧が身体を打つ。

一瞬で大地に巨大な溝が刻まれ、その破壊力の一端を思い知らされる。


「手応えがありすぎるな」

息を整えながら、俺は霊刃に黒炎を纏わせる。

透明化を維持したまま、影の巨体の動きを追う。



奴が再び跳躍し、地面を激しく踏みつけるたび、周囲の木々が揺れ、土煙が舞う。

その一瞬の隙を突き、俺は魔法陣を展開した。


「凍てつけ――『氷柱の牢』!」

地面から鋭い氷柱が突き上がり、影の巨体を捕らえようとする。

氷柱が奴の脚をかすめ、その動きをわずかに止めるが、力任せにそれを砕き、反撃の体勢を整えてくる。


「修羅、奴の外殻は非常に硬い。手強いぞ」

神威の声が響く。


「わかってる。まずは動きを封じる」

俺は影縛りの巻物を取り出し、手際よく展開する。

地面に広がる魔法陣が淡い光を放ち、奴の巨体を縛り付けた。


影の中で巨体が激しく蠢き、拘束から逃れようとするたび、地面が軋みを上げる。


「これで少しはおとなしくなったか」

一瞬だけ笑みを浮かべながら、高度を上げた。



奴が拘束された状態で胸元にエネルギーを溜め始めるのを視認した瞬間、全身が警鐘を鳴らした。

「修羅、奴の力を甘く見るな。

拘束を解こうとしている!」


「その前に叩き込む!」

俺は高度から急降下し、魔法陣を展開。


「砕け――『雷槍』!」

天空から落ちる雷の槍が、影の巨体を正確に捉える。

閃光と轟音が大地を揺らし、奴の外殻が焼け焦げる音が響く。


しかし、奴の動きは止まらない。

拘束を引きちぎる勢いで体を揺らし、放たれた雷の余波を弾き返す。



「修羅、このままでは魔力の消耗が激しすぎるぞ。今は引くことも考えろ」


「引く?そんな選択肢があると思うか」

神威の言葉を無視し、霊刃に魔力をさらに注ぎ込む。


「決める」

全身に力を込め、黒炎を最大限に纏わせた霊刃を握り直した。

空中で魔法陣を重ねるように展開し、一気に奴の懐へ突進する。


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