11 ギルドの策謀
冷たい朝の光が街を照らしていた。
ギルドの調査隊が集まり、討伐跡地で得た報告を持ち寄って議論を始めている。
その中心に立つギルドマスターが、厳しい表情で報告書を読み上げた。
「討伐が確認された。スティールオーガ、フロストビースト、フレイムワイバーンに続き、またも目撃者なし。これでは神の使いか何者か分からん」
冒険者たちはその言葉にざわめき、意見を交わす。
「いや、あれはきっと人間だ。痕跡が人間の技術を使っているように見える」
「だが、姿が見えないのはどう説明する?」
ギルドマスターが腕を組みながら一喝した。
「透明な存在が神の使いだろうと、ただの冒険者だろうと関係ない。次の討伐現場に追跡用の魔法陣を仕掛ける。これで正体を暴く!」
その頃、修羅は街の道具屋に立ち寄っていた。
幻惑の術で装備を一般的な冒険者のものに見せかけ、周囲から注目を避けている。
右手に黒炎の霊刃があるものの、それはどこにでもある普通の剣にしか見えない。
「今日は何を買っていくんだい?」
道具屋の主人が声をかけてくる。
修羅は棚を見ながら、手軽な回復薬を手に取った。
「少し遠出するから、備えだけな」
「気をつけなよ。最近は魔物の話が多いからな」
商品を受け取った修羅は、何事もない顔で街を後にした。
その背中に気づく者は誰もいない。
ギルド内では特別部隊の編成が進められていた。
彼らは透明な存在――修羅の正体を突き止めるため、追跡用の魔法陣と高度な探索魔法を装備している。
「次の狩猟場は北の森だ。あそこにはAランクの魔物が潜んでいる」
リーダーの指示に従い、調査隊が一斉に準備を整える。
「この透明な存在が何者であろうと、捕らえてみせる!」
冒険者たちが士気を高め、街を出発する。
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俺たちは北の森に到着していた。
ここにはAランクの魔物「デスジャッカル」が群れを成して徘徊している。
その獰猛な牙と素早い動きで、多くの冒険者を苦しめてきた魔物だ。
「修羅、奴らの群れは厄介だが、全てを狩り尽くせば得るものは大きい」
神威の声が冷静に響く。
霊刃を構えながら微かに笑みを浮かべた。
「問題ない。群れごと相手にするのも悪くないだろう」
魔法陣を展開し、自身に速度と防御のバフをかける。
デスジャッカルの群れが低く鋭い唸り声を上げ、一斉に俺へ突進してきた。
地面を削る爪の音と、喉の奥から絞り出されるような声が耳に刺さる。
その速さは、ほんの一瞬でも足を止めれば喉笛を食いちぎられるほどだ。
だが、俺は冷静だった。
透明化の術を発動し
一気に
群れの死角へ滑り込む
「まずは一匹目だ。」
低く呟きながら、黒炎を纏った霊刃を振り抜く。
刃が毛皮を裂き、筋肉を抉る感触が手元に伝わる。
黒炎が傷口に広がり、焼ける肉と焦げた血の匂いが立ち昇る。
デスジャッカルが断末魔の咆哮を上げる間もなく、体が痙攣し、その巨体が重たく地面に沈む音を聞いた。
残りのジャッカルたちが立ち止まり、俺を警戒する。
その目には恐怖が見えた――仲間の死を目の当たりにした本能的な怯えだ。
「奴らの恐れが見えるぞ。この隙を逃すな。」
神威の声が冷たく響く。
俺は薄く笑いながら答えた。
「分かってる。」
次の瞬間、俺は跳躍し、地面すれすれを滑るように突進する。
黒炎を纏った刃が次のジャッカルの首筋に食い込むと、血が勢いよく噴き出し、俺の顔をかすめた。
その血は温かく、鉄の味が漂う。
「まだまだだ。」
群れの中に紛れ込み、立て続けに霊刃を振り抜く。
一撃ごとに刃が肉を引き裂き、内臓が崩れる音が耳に残る。
血が地面に溜まり、泥と混ざって足元を滑らせるが、俺は止まらない。
ジャッカルの一体が恐怖に駆られ逃げ出そうとする。
だが、その背を捉え、黒炎の一閃で後ろ足を切り落とした。
咆哮が途切れ、ジャッカルは地面に這いずるように転がる。
残った最後のジャッカルに視線を向けた。
そいつはすでに震え、後ずさりしている。
刃を構え直し、一気に踏み込む。
最後の一撃で、その首を根元から切り裂いた。
血が霧状に空中へ散り、ジャッカルの巨体が鈍い音を立てて崩れ落ちる。
討伐を終えた頃、森の奥から奇妙な気配がした。
冷たい視線を感じ、俺は血の匂いに満たされた空気の中でそちらを探った。
「人間だな。ギルドの調査隊だろう。」
神威が警告を放つ。
透明化を維持したまま、俺は声を漏らさないように気配を探る。
「ここまで来るか……少し遊んでやるか。」
そう言いながら、最後に残ったジャッカルの死体を踏み越えた。
足元に溜まった血がぐちゅりと音を立てる。
調査隊を欺く準備をする間も、俺の手は黒炎の熱を帯びたままだ。
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