12 神の使いか、災厄か
北の森に響く咆哮が消え、静寂が訪れていた。
修羅は最後のデスジャッカルを討伐し、その巨体が黒炎に飲み込まれて崩れ落ちる様子を見つめていた。
その足元には、魔石が静かに転がっている。
修羅はそれを拾い上げ、冷たく輝く感触を手のひらで確かめた。
「これで群れは全滅か……次はどうする?」
神威の声が霊刃を通じて響く。
修羅は僅かに笑みを浮かべ、周囲を見渡した。
「狩るべきものがいる限り、俺のやることは変わらない」
だがその時、微かな気配が修羅の意識を捉えた。
「人間の気配……か」
修羅は魔力を練り上げ、透明化の術を発動した。
同時に霊刃を収め、慎重に動き始める。
森の中に現れたのは、ギルドの調査隊だった。
彼らは事前に設置した追跡用の魔法陣を頼りに、この討伐現場へと足を運んでいた。
リーダーが地面に残る痕跡を調べながら、険しい表情で呟いた。
「やはりここでも魔物が討伐されている…透明な存在が関与しているとしか思えない」
別の隊員が、不安げに辺りを見回した。
「まるで神話に出てくる神の使いだ。こんな力を持った人間がいるとは思えない」
「神の使いだと? 馬鹿を言うな。
だが、この現場の状況を見る限り、ただの冒険者ではないのは確かだ」
リーダーは足跡一つない討伐跡を見つめながら、鋭い目つきで周囲を警戒した。
修羅は調査隊の気配を感じ取りながら、透明化を維持したまま動いていた。
彼らが自分の存在に気づいていないことを確認すると、静かに魔法陣を展開する。
「どうする? 奴らに干渉するか?」
神威が問いかける中、修羅は短く答えた。
「しない。ただ、狩りを邪魔されるのは面倒だな」
修羅が発動したのは、幻惑魔法だった。
調査隊の視界を曇らせ、感覚を混乱させることで、その場から自然と遠ざける策を講じた。
調査隊の隊員たちは突然、目の前に広がる景色が歪んだように感じた。
「リーダー、これは……何かの魔法か?」
「くそ、深入りするのは危険だ。一旦撤退!」
調査隊は痕跡を追うことを諦め、慎重にその場を後にした。
調査隊が去った後、修羅は術を解き、姿を現した。
静かに息を吐きながら、神威に語りかける。
「ギルドの動きが面倒になってきたな。次は、もっと静かな狩猟場を選ぶか」
神威の声が微かに笑みを含んで響く。
「静かでも、狩りの質を落とすつもりはあるまい。むしろ、お主の欲求が増しているようにも見えるぞ」
修羅は霊刃を握り直し、次なる狩猟場へと足を向けた。
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