9  ゴールデンスライムとスティールオーガ討伐

俺の指先に浮かぶ漆黒の矢は

まるで

生きているかのように空間を歪め

静かに揺れている


この矢は、ただの魔力の産物ではない。

幾度も練習を重ね、俺の意志そのものを宿すように鍛え上げた技だ。

試し撃ちでは、ただ空気を裂くだけでなく、狙ったものすべてを障害ごと貫く――そんな手応えを確かに感じている。

だが、この矢の本当の価値は実戦でこそ証明されるものだ。


「技を見極めるには、相応しい相手が必要だな。」

神威の声が霊刃を通じて低く響く。

その声には冷静な助言と、わずかに隠された期待が込められている。


「あの金色の奴を狩ろうと思ってたからちょうどいい。」

俺は笑いながら答え、探知魔法を展開した。


移動を開始して10分ほど経った頃、湿地の霧の向こうに金色の輝きが見えた。

ゴールデンスライム3匹。

濃霧を切り裂くようにその体は眩い光を放ち、内部に浮かぶ「金核」が鋭く輝いている。


丸くて無害そうに見えるが、外見に惑わされると痛い目を見る。

奴らの外殻は金核を守るために瞬時に硬化して、攻撃時は棘を作る、逃げ足の速さもかなりのものだ。

素早さが普通の冒険者たちはダメージを与えられてから逃げられる事が多かった。


「始めるぞ。」

俺は漆黒の矢を生成し、狙いを定めた。

矢が放たれると、空間が軋むような音を立て、漆黒の軌跡がスライムの中心部に向かって進む。

だが矢が奴の表面に触れた瞬間、金属のような硬化した外殻が弾き返し、矢が砕け散る。


「この矢じゃあ…あの防御を抜くのは難しいな…まぁ練習にはなるか」

スライムが体を振り、その金色の液体を周囲に撒き散らす。

液体が地面に触れた瞬間、瞬時に硬化し、鋭い棘のように突き出してきた。

俺はそれをかわしながら再び矢を生成する。


「貫く!」

矢をさらに鋭く細く作り直し、スライムの中心部に向かって放つ!


矢が体内に突き刺さり金核にかすった瞬間

スライムが大きく震えた

防御が一時的に緩むのを見逃さず

俺は連続で矢を放つ


最後の矢を放つと、それが金核を正確に貫いた。

ゴールデンスライムの体が弾けるように崩れ落ち、地面に砕けた金核だけが残った。


矢の練習は終わりにして、残りの2匹は黒炎の霊刃で秒で切り伏せる。


俺は金核を拾い上げる。

その輝きは宝石のようだが、俺にとっての価値はそこではない。

「矢は攻撃力は高くないから使いどころを考えないとな…これ売ってまた特殊な防具でも作るか」


他のスライムの体液や表面の膜はそのまま放置した。

加工すれば使えるが、俺には必要ない。

防具作りや武器の素材になる物だけが重要だ。

大きな戦いに備えるためには、どうしても装備の強化が必要だからだ。


「そうやって拾う物を選ぶのはいいが、資源を無駄にするなよ」

「余計な物を拾っても邪魔になる。必要な物だけで十分だ」

俺は金核を袋に入れ、霧の中を歩き出した。


高値で取引されている金核を闇市場で売る。

砕けていても高値なのには理由があったが…よく覚えていない、溶かせばいいとかなんとか言ってた気がする。


「強い魔物の素材を売っても良いんだけど面倒ごとが増えるからな…」


「そうだな、即座に有名な冒険者になってしまうな」

神威も同意する。


強敵を倒して手に入れた素材の中で、俺が手を伸ばすのは自分の装備に使える物だけだ。

それ以外はたいして興味がない。

手にした素材をギルドの買取所に持ち込むことも基本的にはしない。


腕が確かで余計な口を開かない職人にだけ素材を渡し、必要なものを作ってもらっていた。


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静寂に包まれた森の奥深く、修羅は新たな狩猟場へと向かっていた。


だが、その背後では、修羅の存在を探ろうとするギルドの動きが密かに進行していた。


修羅は狩猟を終えた後、街へ戻り、Bランク冒険者としての姿を装っていた。

黒炎の霊刃は幻惑の術で普通の鋼の剣に見えるように変えられ、着ている防具もどこにでもある革製の軽装に見える。

「これで人目を引くことはない」

自身に言い聞かせるように呟きながら、修羅は道具屋に立ち寄った。


店の主人が気さくに声をかけてくる。

「よう、最近はまた魔物が増えてきてるらしいな。お前さんみたいな冒険者には稼ぎ時だろう?」

修羅は軽く肩をすくめて答えた。

「まぁ、ぼちぼちだな」

店の棚から回復薬をいくつか手に取ると、支払いを済ませて店を後にした。


街を歩く修羅は、特に目立つこともなく、人混みの中に溶け込んでいる。

神威の声が霊刃を通じて静かに響いた。

「幻惑の術は完璧だな。これなら誰にも気づかれることはないだろう」


「当然だ。邪魔されるのはごめんだからな」

短く答えながら、修羅は静かに街を後にした。


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森の奥にたどり着いた俺は、新たな狩場を見据えた。


Aランクの魔物「スティールオーガ」が棲息しているとの情報を掴み、その巨体を討つべく進む。

遠くから冒険者たちの声が聞こえる。

湿った空気を切り裂くような声が耳に届くたびに、気配を探知し、動きを見定める。


「人がいる」俺は短く呟き、透明化の術を発動する。

姿が空間に溶け込み、完全に消えた瞬間、周囲の空気が変わる。

「奴らの存在に気を取られるな」

神威の冷静な声が霊刃を通じて耳に響く。


静かに息を整え、スティールオーガの死角へ忍び寄った。

その巨体は森を圧倒し、進むたびに木々を薙ぎ倒していく。

地面が軋み、湿地が赤黒い泥を跳ね上げるたび、その破壊力が伺えた。


俺は

一気に間合いを詰め

黒炎を纏った霊刃を

振り下ろした


刃が硬い鋼鉄の皮膚に食い込み

金属が裂ける鈍い音が響く


黒炎が瞬時に傷口から内部へ広がり

肉を焼き焦がす臭いが鼻を突いた


スティールオーガの巨体が震え、咆哮が森全体に響き渡る。


「こっちだ。」

俺は別の方向へ移動し、再び接近。黒炎を纏った刃を今度は巨体の膝関節に叩き込んだ。

鋼鉄の骨が砕け、膝が音を立てて崩れる。


巨体が

バランスを崩しながら倒れ込む瞬間

地面が激しく揺れ

湿った泥と血が混ざり合う


スティールオーガは振り返りながら腕を振り下ろすが、そこには誰の姿もない。


視界に入るものを手当たり次第に破壊しようとするも、そのたびに刃が別の部位を抉る。

腕、胸、そして喉元――傷口から溢れ出す黒い血が、巨体を覆い尽くしていく。


冒険者たちは遠巻きにその状況を見ている。スティールオーガが咆哮を上げながら倒れていく様子に、ただ唖然とするばかりだ。

「一体どうなってるんだ…魔物が勝手に倒れていく?」

「いや、見えない何かがいる……あれが神の使いなのか?」


スティールオーガが完全に崩れ落ちたとき

地面は鮮血で濡れ

残骸の中から

内臓が零れ落ちた


巨体の胸元には霊刃で開けられた巨大な裂け目があり、黒炎がまだ内部を焼き続けている。

その煙が森の中に充満し、焼け焦げた肉の臭いが漂う。


冒険者たちが遠巻きに近づき、その痕跡を調べ始めた。

「本当に神の使いだったのか?」

「分からない。ただ魔物が討伐されたのは確かだ…だが、この仕業は人間とは思えない。」


俺は冒険者たちの声を背に受けながら、姿を現すことなく次の狩猟場へと歩き出す。


心の中には狩りの高揚感が渦巻き、次なる挑戦への渇望が炎のように燃え上がっていた。

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