エピローグ



『レイさん。こんばんは』


 ……私が目を開けると、そこには、黒くて大きな亀がいた。

 私は……この亀を知ってる。


「霊亀……さま」


 一度、サトル様の中で見た、霊亀。

 彼に異能の力を与えてる、大妖魔だ。


 にこっ、と霊亀の目元が細まる。


『悟と仲良くやれてるようですね』

「はい、おかげさまで」


 霊亀さまはふふっ、と笑う。


『どうか、悟のこと、これからも支えてあげてくださいね。あの子……【私】が死んでから、ずっと気張ってて、本当の自分を誰にもさらけだせないでいたから』


 ……私が、死んだ?


「あ、あの……? 何を言ってるんですか……? あなたは、いったい……?」


 すると霊亀さまは私の目を見てくる。


『付喪神から、宝具をもらったのでしょう? そして、百目の異能をぬえ模倣こぴーしたのでしょう? なら……わかるはずでは?』


 私は、百春さまからコピーした、百目の異能を発動させる。

 今彼には、付喪神さまからもらった、眼鏡の宝具を貸してる。


 百目、そして……宝具。

 二つのチカラを使う……。


 すると巨大な亀の姿が、別のものに見えた。

 ……そこに居たのは、黒い髪の、とても……とても、綺麗な女性だった。

 でも……不思議とだれかに似ているように思えた。


「人間に化ける妖魔もいます。その際は、百目と付喪神のチカラを使うことで、変化を見抜くことができるのです。覚えておきなさい」

「は、はいっ」


 にこっ、と黒髪の女性が笑う。


「ああ、本当に。あなたは奇跡のような存在ですね。三つの異能をその体の内に宿し、そして……悟に普通に接してくれてる」


 ……そうだ。

 その、まなざし。


 赤い瞳は……サトル様と、同じなのだ。


「もしかして……守美すみさま……?」


 サトル様の、お母様。

 死んでしまったと聞いていたあの人が、どうしてここに……?


 それに、霊亀の姿で、サトル様の中に……どうしているんだろう……。


「ええ。そうです。私は一条 守美すみ。悟の母です。初めまして」

「は、はい……お、お世話になっております! その……お、お母様……」


 すると守美すみさまはきょとんとした顔になる。

 そして……その瞳から、つつ……と涙がこぼれ落ちた。


「あ、あの……どうなさったのですかっ?」

「いいえ……。そうか。あなたも、嫁心ついたようですね」


「よ、嫁心……」

「レイさん。ありがとう。あの子のもとに来てくれて。わたしの代わりに、あの子を幸せにしてあげてくださいね」


 そう言うと、守美すみさまの体がまた霊亀の姿へと変化する。


『貴方たちを、見守ってますよ。悟の中で』


    ◇◇◇


守美すみ……さま……」


 目覚めると、見知った天井があった。

 一条家の私の部屋だ。


「んん……レイぃ~……」

「さ、サトル様!?」


 仕事着のまま、サトル様が眠っている。

 しかも……私の布団の中にっ?


「ど、どど、どうして……?」


 昨日は確か、夜廻りにでかけていったはず……。

 帰ってきてそのまま……私の部屋に来たってこと……?


「あ、あの……自分のお部屋に帰らないと……きゃっ」


 サトル様が私を抱き枕にしてくる。

 ぎゅっ、と抱きしめ、安らかな寝息を立ててる。


「…………」


 私は、彼の白い御髪を撫でる。

 頑張ってる彼を、起こしてはいけないと、思ってる。


「…………」


 ……私は知らないことが多すぎる。

 たとえば、守美すみさま。


 彼女は霊亀の姿をして、そして、サトル様の中に居た。

 


 たとえば、【白面】とやらの存在。

 一条家とは因縁があると言っていた。どういう因縁なのか……知らない。


 たとえば、サトル様のお父様のこと。

 この家で一条 家嗣いえつぐさまの名前は禁忌とされている。


 サトル様の周りのことを、私は……何も知らない。

 でも……これから、時間をかけて、その全てを……知りたいと思ってる。


 だって……。


「好き……ですよ。サトル様……」


 好きな御方の、ことだから。私は……何でも知りたいって思ってる。


「やっほーい! おっはよー! レイちゃーん!」


 そのとき、ふすまが開いて、六反園ろくたんその 木綿ゆうさんが部屋に入ってきた。


「こないだはごめんねー。今日は淺草あさくさデート……って、ええ、ええええ!?」


 ……状況を整理しよう。

 木綿さんの目の前には、私、そして、サトル様がいる。


 しかもこれは、端から見ると、同衾してるようにも見える。


「れ、レイちゃん……もうっ!?」

「も、もうって……」

「もう閨をともにしてるのっ!?」


 ね、ねね、閨ってそんな……。


「お赤飯炊かないとねー!」

「違うんですっ! これはその、違うんです!」


 ドタバタ、と百目鬼どうめき姉弟がやってくる。


「どうしたんですかー、お嬢様。まあ」

「レイちゃん、悟にーちゃんと何してるの……?」


 朱乃さんは訳知り顔でうなずくと、蒼次郎君の背中を押す。


蒼次郎そうじろう。あんたには早い」

「えー! どういうことだよぅう!」

「お赤飯を炊かないとってこと」


 朱乃あけのさんにも勘違いされてるっ。

「うるさいぞおまえら……」


 むくり、とサトル様が目を覚ます。


「あ、あの! おかえりなさいませ。その……寝るなら自分の部屋で寝てはど、どうでしょうか?」


 するとサトル様はふむ……とうなずくと、そのまま眠ってしまった。

 もうっ。


「おきてくださいっ」

「ここがいい……良い匂いするし……レイがいるし……」

「ああ、あのじゃあせめて私を離して……」


「それは、できん。レイ……愛してる……ぐぅ……」


 それだけ言うと、サトル様はお眠りになられてしまう。

 気づけば木綿さんたちはいなくなっていた。

 ……遠くで「お赤飯だ」「炊かないとね」という声が聞こえる。誤解されてしまったようだ……。


 ……でも、なんでだろう。

 誤解されても、別にいいかなって思ってる自分がいる。


 サトル様になら、体を委ねても良い。そもそも、私はここに……花嫁になりにきたのだから。


「…………」


 秋の爽やかな風が窓から入って、私たちの髪を揺らす。

 ……思えば、遠くに来たものだ。


 妹の代わりに、ここ極東にやってきて、それからそんなに日が経っていないのに……毛ずいぶん昔のことに感じる。


 ……今、実家はどうなってるだろう。

 でも……もう、どうでもいい。


 あの家のことなんて、私にとっては……もういいのだ。


「すぅ……ぐぅ……レイぃ……好きだぁ……」


 サトル様のいる、この家が。

 私の……帰る場所になったのだから。


「私も、好きですよ、サトル様」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【※大切なお知らせ】



読了、ありがとうございました。


レイとサトルの物語は、一旦これにて完結となります。


二章以降を執筆するかどうかは、まだ何も決まっていないので、一旦完結とさせてください。


(数日後、続けるか否か、お知らせします!

ブックマークは外さずにお願いします!)



僕の、個人的な話しになってしまうのですが、この作品で、どうにか日間総合1位をとってみたいのです!



そして、一章を完結した

今日が、本作における、一位を取る最後のチャンス!


そこで!お願いがあります!


「第二章以降も読んでみたい!」

「面白かった! 続きが気になる!」

「もっとレイたちの活躍をみたい!」


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