【挿話】異能訓練


 ある日のこと。

 私は朱乃あけのさんと一緒に、私室にいた。


「異能の使い方を教えて欲しいです」


 朱乃あけのさんは目を丸くしていた。


「異能を……?」

「はい。私は、己のチカラを、自在に扱えるようになりたいんです」


 私は三つの異能を持つ。

 ぬえ饕餮とうてつ。ザシキワラシ。


 どれも強力なチカラだ。

 でも……十分に扱えてるとはいえない。


 水虎すいこ戦では、ぬえで模倣した結界術を使って戦えた。

 けど、あれ以降、あまりうまく使えていないのである。


「アタシが教えるのはかまいませんが……お嬢様は、どうして異能を使えるようになりたいんです? アタシらでは、チカラ不足ですか……?」


 不安そうに、朱乃あけのさんが尋ねてくる。

 自分たちがチカラ不足だから、自衛のために力を付けたい……そう思われてしまったのだろう。


 勘違いさせてしまったようだ。


「違うんです。私は……早く一条の家の人間に、なりたいんです」

「と、いいますと……?」


「私……こっちに来て、一条家の皆さんに、お世話になりっぱなしです。何も……返せていない。私も……少しでも皆さんの力になりたい。皆さんと……同じになりたいんです」


 朱乃さんは得心いったようにうなずく。


「お嬢様のお気持ちは、理解しました。ありがとうございます。アタシも、皆もうれしいです。ね、皆」


 ふすまが開き、黒服女子のみなさんが、うんうん、とうなずく。

 き、聞かれていた……恥ずかしい……。


「とはいえ、寄生型能力者であるアタシらに、異能の使い方をって言われても……うまく教えられる自信ないですね」


 寄生型能力者は、その強大な力をもつがゆえに、制御できないという欠陥をかかえていらっしゃった。


「制御のコツというより、使い方のコツをしりたいんです」

「うーん……」


「どうしたんです?」

「いや、ですね。異能はアタシらにとって、生まれてすぐあったもの。どう使うか教えて欲しいと言われても……教えるのは難しいです。歩き方を教えろとか、手の動かし方を口で説明しろ、と同義なので」


 なるほど……。

 異能者にとって異能はあってあたりまえのものだから、言語化が難しいと。


「陰陽塾に通うのも手ですね」

「おんみょー……じゅく?」


「はい。妖魔や異能者と戦うモノを育成する、まあ、学校です。通称、異能学校」

「異能学校! そんなところが……」


 それがあるなら、是非、行ってみたい。


「あー、でも陰陽塾の入学式は4月なんですよ。入るとしたら来春からですかね」

「そっか……」


 今は11月下旬、まもなく12月になるというところ。

 陰陽塾に通うとしても、まだ四ヶ月も先のこと……。


「その間は、自己流で鍛えるしかないですね」

「ですね……。アタシは言葉にするの苦手だし、蒼次郎そうじろうも直感タイプだから……真紅郎兄さんに聞くのがいいかもですね」


「真紅郎さんに?」

「はい。兄さんも寄生型ですが、能力のコントロールはできていた、希有な存在なので」


 曰く、通常の寄生型能力者は、能力を暴走させていた結果、異業になっていた。


 でも真紅郎さんが包帯グルグルまきだったのは、【吸血鬼】の特製を引き継いでいたがゆえにだったらしい。


「というか、それこそサトル様に異能の使い方を請えば、喜んで教えてくださるのではないですか?」

「そ、それは……そうでしょうが……」


 なんだか、言うのが恥ずかしかった。

 子供っぽいって思われるのは、ちょっと、いやだ。


「ははん。なるほどぉ……異能を練習して、サトル様に褒めてもらいたいんですねぇ~」


 う……。バレてしまっていた。

 朱乃あけのさんや黒服女子の皆さんがニコニコしてる。


「乙女ですねぇ~」

「うう……秘密ですよ?」

「わかってますって。んじゃ、兄さんとこいきましょうっ」


 朱乃さんに連れられ、真紅郎さんのところへと向かう。

 黒服さんたちも、この一条の家に住んでいる。


 私やサトル様とちがって、一人一部屋ではなく、相部屋だそうだ。

 真紅郎さんは蒼次郎君と相部屋だった。


「あ、レイちゃーん!」


 蒼次郎くんがぴょんっ、と抱きついてくる。私は彼を抱っこする。

 年下の弟みたいで、蒼次郎君、可愛くて好きなのだ。


「おや、どうしました、お嬢様?」

「レイちゃんもコイコイする?」


「こ……?」


 畳の上では、お札が置いてあった。


「子供の遊びです。蒼次郎に付き合ってたんです」

「なるほど……」


 お札には可愛らしい絵が書いてある。

 

「レイちゃんもやろやろっ。ルール教えるからさっ」

「うん。後でね。今日は……真紅郎さんに用事があってきたの」


 真紅郎さんが目を丸くしながら言う。


わたくしに……?」

「はい。異能の使い方を教えて欲しいんです」


 朱乃あけのさんが事情を、私に変わって説明してくださる。


「それはとても殊勝な心がけですね。このような素晴らしい方が家長になってくださり、私もうれしい限りです」


「あ、ありがとうございます……」


 前のように、恐縮したり、私なんか……とは自然と思わないようになっていた。

 だってそうやって自分を下げることで、私に期待してくださってる、一条の家の人たちの思いまでも、踏みにじることになるから。


「本格的な異能戦闘訓練は、陰陽塾でならうのがいいでしょう。今は、基礎的な霊力コントロールを覚えるべきです」

「れいりょく……コントロール……ですか」


「ええ。異能の扱いを、簡単に説明しますと……」


 真紅郎さんが和紙の上で、達筆な字でこう書いた。


【霊力→体内妖魔→異能発現】


「このように、霊力を体内の妖魔に渡すことで、異能を発動させるのです。異能をスムーズに扱うためには、霊力を自在に動かせるようにならねばなりません」


 なるほど、非常に勉強になるな。

 今まで自分は、無意識に、異能を発動させていた。でも発動にはこういうメカニズムが、ちゃんと存在していたらしい。


「霊力のコントロールは、どうすれば身につくのですか」

「訓練あるのみですね。まずは、霊力の流れを感じ取ることから。お嬢様」


「はい」

「私の肌に直接手をふれてください」

「は、はひ……?」


 肌に……触れる?

 お、男の方の肌にっ?


「レイちゃん何照れてるのぉ?」

「サトル様と散々いちゃついてるのにねー」


 とからかってくる、百目鬼どうめき姉弟っ。


「ちょ、直接肌を触れることは、したことなかったので……」

「やましい意味はありません。霊力の流れを直に触れて貰おうとおもっただけです」


「わ、わかりました……」


 朱乃あけのさんたちの前でそんなことするの……とっても恥ずかしい。

 で、でも……霊力を上手く扱えるようになりたいし……。


 よ。よしっ。


「お願いします」

「はい、では……」


 真紅郎さんがシャツのボタンを全て外す。


 シャツの合間から、真紅郎さんの、鍛え上げられた肉体が覗く。

 ……サトル様もそうだけど、異能者のかたって、体を鍛えてる気がする(朱乃あけのさんもかなり体つきがいい)。

 

「し、失礼します……」

「はい。では、私の丹田……へその上に手でふれてください」

「は、はひ……」


 どうしても、顔が熱くなる。男の方の素肌に触れるなんて……。

 ぴたり、と私は真紅郎さんのお腹に触れる。

「では……霊力を流します」


 最初は……わからなかった。

 でも……徐々に、熱いものがうごめいている感覚が……伝わってくる。


「この、熱い……血の流れみたな、これですね」

「!? もう……感覚を掴んだのですか?」


「? はい。なんとなく……」


 おー……と百目鬼どうめき姉弟が拍手する。


「すげえやレイちゃん。おいら、まだ霊力コントロール苦手で、能力不発になるときあるもん」

「そ、そうなんだ……」


 今ので、なんとなく掴んだ。よし……これなら……。


 と、そのときだった。

 ガラッ。


「「「「あ……」」」」


 ……状況を、説明しよう。

 半裸の真紅郎さんに、触れている……私。


 そんなところにやってきた、サトル様……!?


「あ、あの……」

「レイ」


 サトル様が近づいてきて、がしっ、と私の手を掴む。


「俺以外の男に、触れないで欲しいっ」

「えっと……」

「俺ならいくらでも触れて良いからっ!」

「あの……」


「欲求不満なら俺が付き合うから!」

「ちちちち、違います誤解です!」


 どうやら私が、欲求不満から、し、真紅郎さまを襲ったと思ったようだっ。


「違いますよ! なんて勘違いしてるんですかっ!」

「違うのか?」

「そうですよっ」

「ではどうして真紅郎を裸にむいてるのだ?」

「いいかたっ! それは……」


 まさかコソ練していたとは言えないし……。

「やはり……やましいことしていたんだっ! 俺はこんなにレイのことが好きなのにっ!」

「わ、私だってサトル様のこと好きです!」


「ほんとかっ?」

「はいっ!」

「そうか……!」


 ぎゅーっ、とサトル様が私を強く抱きしめる。


「レイ、俺はおまえを離さないぞ! 誰にも渡さないし、誰にも触れて欲しくない!」


 そんな様子を見て、蒼次郎君があきれたように言う。


「にいちゃんなんだか、子供っぽくなってなーい?」

「というより、昔に戻った感じがしますね。昔のサトル様は、もっとわがままで、甘えたがりな、クソガキ……もとい、悪童だったのですよ」


 その後私を手放したくないサトル様に、一日中ぎゅーっとされ続けたのだった。

 恥ずかしかったけど、でも……うれしかった。


 サトル様が私のことを、深く愛してくださってるのが伝わってきたからだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【★お知らせ】


第一章完結からしばらく経ったある日、僕は久しぶりに作者ページを開きました。


そして、驚きました。


こんなにたくさんの方から、続けてほしいというコメントが来たこと、そして、たくさんのポイント&ブクマに!!!


これはもう、書くしかない!

期待に応えないと!


ということで、


第二章、書くことにしました!!!


本当に多くの方に、応援していただけました。

ありがとうございます!


毎日投稿でヘトヘトだった僕の心が、皆様のポイントや応援のおかげで、とても癒されました。


これならまだ、書ける! 




ということで、第二章は、明日、【12/25(水)】の夕方18:00からリスタートします!!!



これからも執筆頑張りますので、


お願いがあります!


「続き待ってたー!!

「第二章楽しみ!」


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